#Interlude overkill @それぞれの視点
妹は……妹の彼氏は、決して妹を見捨てなかった。
酷いことをされて、泣きじゃくる妹を抱きしめて。私に、もう少し勇気があればこんなことにはならなかったのだと思う。
私は何もしていない。けれど、パーティー・ライオットの人たちが結果的になんとかしてくれた。
それでいいの?
弱いままで何も出来ずにただ指をくわえていただけの私に……救われる資格なんて。
「お姉ちゃん……ごめん」
「ううん……私の方こそ……」
元の事務所に戻れる算段をしてくれたけれど、やっぱり声優は辞めようと思う。
身も心もボロボロで……これ以上……もう続けることなんて無理。
「お、おい、これ……」
「え? ヒデ君? どうしたの?」
「ネットに、お姉さんの……え? 渋谷のモニター全部……ジャックだってよ?」
「え……?」
わ、私の演じたキャラたちが次々と流れて……。
「夢実ちゃ~~~ん、俺はいつまでも応援してるから!」
「がんばれ!! 僕はどこまででも付いていくよ!!」
「わたし……夢実ちゃんの演じてきたキャラが好きでした!! だから引退なんてしないで」
「……わたし、イジメられていました。でも、夢実ちゃんがいたから救われたんです」
——絶対に負けないで
な、長い……こんなに長いCMを誰が。なんのために。
それに……優しいなんて言葉じゃ収まりきらないほどの。
「ゆめみ、ちゃん。あ、あたち……ピュアルキュリーのこえ……かわっちゃうの……いやだよ」
ベッドに横たわる……女の子の腕には点滴。鼻腔には管が……こ、こんな子まで。
泣きそうな顔で……映像に映っていないところから
——夢を諦めないで。
最後にテロップが。
追い詰められて忘れていた……私には夢があった。そう、私が幼い頃憧れた、あのヒロインに。自分も誰かに夢を見させたいって。
たくさんの声が……胸を突いて。
痛いよ。苦しいよ。涙が止まらない……。
「お姉ちゃん……」
「私……もう少しだけ。がんばってみる……だって、声が耳から離れないの」
*
「いくら掛かったの? あれ?」
「うーん。さあ。シナモンに丸投げしたから」
「……そっか。でも、すげえなヴェロニーは。あんなの作れるんだからさ」
「エキストラにがんばってもらったから。そういえば、海原も逮捕されたって。久米夢実とその妹が積極的に捜査に協力しているらしいよ」
ん?
なんか今……めっちゃ夢を壊す発言しなかったか。
気のせいだよな。うんうん。聞き間違い聞き間違い。
「ほんとに? いやー良かったなぁ。夢実ちゃんやっぱり、あのCM効果で元気になったってことだよな。うんうん。ファンで良かったーーっ!! 感動をありがとうっ!!」
「目玉くり抜いてやろうかしら。夢実め……」
「い、今、どこかに異端審問官がいたような?」
そういえば、クズンドラの株価が大暴落で社員が続々辞めているらしい。って当たり前だよな。現実でもネットでも袋叩きに遭って、鬼の首を取ったようにネットユーザーが隆介の個人情報
クズンドラなんていつ潰れてもおかしくない会社なんて早く見限るべきだ。
「で。なんでヴェロニーは俺んちに泊まり込みなわけ? そろそろお泊りして1週間くらい経つんじゃ?」
「……だって、ハル君が一向に夜這いを掛けてこないから……」
「一等に四倍? は? コラっ! ギャンブルはもうダメだぞヴェロニー!! それに俺はまだ黙って危険なことしようとしていこと怒ってるんだからなッ!!」
鬼島があんな危険なやつで……それを知っていて喧嘩ふっかけるなんて信じられないだろ。うまくいったからいいようなもので、もしかしたら、本当に殺されていたかもしれないんだから、これが怒らずにいられるかってーのッ!!
「ご、ごめんにゃんっ!! さて、気を取り直して——お出かけするにょん」
「どこに? 外寒いし、嫌だよ」
「もう~~~っ! いつからそんな出不精になったの。いいからいいから」
引っ張るなって。
*
ぼ、僕がなんで……こんな目に……。自宅にいれば、玄関に
これもすべて、あの海原の奴が悪いんだ。鬼島なんていう訳のわからないホストを懇意にしてしくじり、僕まで被害に遭うなんておかしいだろ?
久米夢実は……大層な弁護士なんて連れてきやがって。あのバカな妹まで僕を見下して……。その彼氏にはぶん殴られるし、警察に突き出してやろうと思ったが……姉妹そろって、「強姦されたって訴えるからッ!!」なんてすごい剣幕だったから……土下座してなんとか取り繕ったが。
僕まで捕まるじゃねえかよ。
あれ……なんで海原は逮捕されて……僕は見逃された?
しかし……ああ、ムカムカする。
そもそも、この計画を立てたのは萌々香じゃねえか。それなのに、あいつ警察に身柄を拘束されてから帰ってこねえじゃねえか。
ん?
誰だ? なになに?
『今すぐハチ公前に来てください』
誰が行くかよ。この状況で外になんか出たら、それこそ殺害されるかもしれねえんだよ。
『来なければ、あなたにトドメを刺します』
……なんだよトドメって。誰からのSMSなんだよ。この番号は誰の……まさか。
あのキャンディストラテジーチャンネルの……まずいな。
海原も鬼島も……あいつにやられたんだ。
それとも、久米夢実がまた噛み付いてきたか?
くっ……行くしかねえのかよ。
玄関から外に出た瞬間……すげえ人数……が立ち塞がって、歩けねえよ。
「た、頼むからどいてくれよ」
無言のプレッシャー。
誰ひとりとして僕を避ける気がないみたいだな。
仕方ねえ……強引に……ッ!!
「うああああああッ!! こ、こいつにヤラれたッ!!」
て、てめえ勝手に倒れて何……は?
「今のはわざとぶつかったよな。暴行罪だろ」
「そうだそうだ。暴力で解決しようとしたなコラッ」
お前らはチンピラかよッ!! 僕は道を歩きたいだけなのに。
っていうか暇人だろ。こんなところで僕の行動を見張って……いったい何がしたいんだよ。
「俺たちの夢実ちゃんによくも酷いことしてくれたな。てめえだけは絶対に許さねえからな」
「僕たちが夢実ちゃんの代わりに、お前に地獄を見せてやんよ」
「あんな子供の夢まで奪って。見たか? 可哀そうに」
「な、なんのことだ……し、知らない」
「夢実ちゃんのファンで俺は良かったって思ってる。みんなの夢を……お前が台無しに……こんな野郎に……くそッ!!」
な、なんなんだいったい。
そうだ、今の
「あ、待てッ!! てめえ葛島ぁぁぁッ!! 逃げんなッ!!」
やってらんねえよ。
あんな狂人に付き合っていたら、身体がいくつあっても足りねえ。
ハチ公前に来たが、いったい誰が……僕を……ん?
なんでこんなところに……
まさかこいつらが、僕をッ!?
「おい、お前ら僕を呼び出して、なんなんだッ!?」
聞こえていない?
わけねーだろッ!! 無視しやがって。
でも……いったい……?
は?
ヴェロニカの奴が……春輔に抱きついて……キスしやがった。
な、なんなんだ?
「おい、てめえ。いったい——」
まったくこっちを向かないで……激しいキスなんてしやがって。
クソッ!!
ヴェロニカは僕がいただく予定なのに、よりにもよって、こんな春輔の野郎とッ!?
「ハル君……聞いて。あたしね……ずっと。小学校の時から……」
「……え? キ、キスはシ、シナリオに書いてなかったぞ。な、な、なにを——ヴェロニカ?」
「今日から……名前で呼んで。あたしの本当の名前」
「あ、ああ。えっと……分かった」
「うん。ありがと。それで……あたしずっとハル君のこと」
——好きだったの。
「……俺も……ヴェロニーじゃなかった。美羽のこと……好きだったんだと思う」
「……うぅ……ハル君ありがとう」
「って、ちょっと待て。シナリオ全無視かよ?」
「いいのいいの」
——は?
な、なにを見せられているんだ僕は。ヴェロニカが春輔に告った?
バカなっ!? 春輔なんかよりも僕のほうが……くそぉぉぉぉぉぉッ!!
ヴェロニカは僕のモノのはずなのに!!
ヴェロニカなら僕のすべてを捧げても良いと思っているくらいなのにッ!!
ん? 待て。
待て。美羽っていう名前が本名か。
それに、小学——待て。待て待て待て。小学校のときからずっとってことは、僕とも同じ……。
……は?
美羽って……まさか、あの美羽か……そ、そんな。あの……汚らしい女が……こ、こんなに。
待て。いや待て。
そんなことあってはならない……まさか。
「おい、九頭竜ッ!! てめえ、九頭竜の分際で僕をコケにしやがったなッ!!」
「きゃぁぁぁぁぁッ!!! 助けてぇぇぇぇッ!!」
うぁぁぁぁッ!! 僕を引っ張りながら倒れるなぁぁぁぁッ!!
こ、こいつ……受け身……そうか。格闘技を……くそっ!!
「おい、隆介……なに美羽を押し倒してんだよ……」
「た、助けてぇぇぇぇッ!!! 誰かぁぁぁぁ!! 葛島隆介に襲われるぅーーーーッ!!」
「ま、待て、ぼ、僕は」
「これは序の口。クズ男聞いて。
何を耳元で……え。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいーーーーーッ!!!
人が集まって、うあああああああああッ!!
コ、コートの
な、なんで……両袖を引っ張られて立ち上がれない。
ち、違うんだ。押し倒してなんかいない……ぼ、僕は
「おい、てめえがあの葛島かッ!!!」
「警察呼べーーーー誰か警察ッ!!」
「すみません、渋谷の、はい、はい。ええ。葛島隆介っていう奴が女の子を押し倒しています」
ま、待て、待てって。
九頭竜の手が緩んだ隙きに……逃げろッ!!
くっ!! 警察がもうッ!?
早すぎだろ!!
逃げるしかない。今はとにかく走って逃げるしか……。
僕が何をした……くそッ!!
九頭竜のやつ覚えておけよ。
*
「やりすぎじゃねえの? シナリオになかったよな? ヴェロニーを襲わせるなんて。いくらなんでもちょっと可哀そうじゃ?」
「だって、勝手に逆上してあたしに触れたから許せなかったの」
「……まあ。肩だろ? それくらい、」
「それくらい? さっき言ったじゃない。あたしはハル君のもの。だから、触れていいのはハル君だけなの。まして、あんな汚物に触れられたらいくらあたしだって怒るよ」
「え?」
「うん?」
「えっと?」
「なに?」
「さっきの告白って……シナリオだよな?」
「うん。あたしの人生のシナリオそのもの」
「……ええっと。人生のシナリオってことは?」
「額面通りの意味ですけど?」
「……キスも?」
「うん。ごちそうさまでした」
「ファッ!?」
頭が混乱する。そもそも、告白をあいつに見せようって言ったのはヴェロニカで。あいつは今どん底だから俺たちが幸せ絶頂の姿をみたら
あれ。そんなことで隆介にダメージ与えられる?
冷静に考えたら……そうでもないような?
大晦日の夜のキスは……なんだったんだっけ?
年始は、ヴェロニカは俺に甘えて……違う。
俺が年始の飲み会で久々に酔って……俺がヴェロニカに甘えてしまったんだ。
なんでかって……大晦日の夜の記憶がフラッシュバックして……理性が吹っ飛んだっていうのが正解だけど……うーん。
その後……覚えていない。俺はヴェロニカに抱きついて、その後どうしたのだろうか。
未だに……聞けていないんだよな。怖くて。
「ヴェロニー、俺」
「みう」
「ああ、そっか……あ?」
「みう。美羽って呼んでって。頭から湯気が出そうな顔してるよ?」
「美羽が俺にキスして……告白して……シナリオがアドリブで」
「まあまあ。こんなシチュじゃつまらないから、もっと雰囲気あるところで、ね?」
「こんなシチュー……ああ、だから『ごちそうさま』って言ったのか」
「……ハル君の頭の中は、どうにかこうにか……あたしを遠ざけるプログラム——そう。思考の真ん中がカーネルパニックしてるんだよね。ま、いっか。さて、デートして帰ろ。榊さんに挨拶していないしさ」
み、美羽のような子と2回目のキスなんて……ああ、俺、死ぬんじゃないかな。
あれ。
ともかく……ちゃんとしなきゃ……だろ?
美羽との関係を……。
————————————
♪Now on air.
Channel by 「Party Riot」Extra edition♪
ヴェロニカ「シーズン2はここまでっ!!」
リオン「……おい。今回は随分と長かったじゃないか!」
シナモン「とほほ……ラブコメを越えてどこに向かうのかと心配していました」
ヴェロニカ「なに言ってるのシナモンッ!! 我道を行く、のよ!!」
リオン「……」
シナモン「……」
ヴェロニカ「さて、諸君っ! 遠慮なく☆やレビューをくれたまえ。♡もうれしいぞ♪」
シナモン「いちいち癇に障ると言いますか……ホントにみんな離れちゃいますからね? とにかく、シーズン3ではちゃんとしてくださいよ? ヴェロ姉?」
ヴェロニカ「わ、分かってるわよ」
リオン「いや、ヴェロニカは分かっていないな。まずプロット通りにまっすぐに歩いてくれ」
ヴェロニカ「道はデコボコなくらいがちょうどいい!! ってことでシーズン3もフルスロットルで行くよっ♡」
シナモン「え、えっと……反省していないですよね? それにシーズン3は魅音姉のお話って聞いたんですけど」
ヴェロニカ「ああ、大丈夫、ちゃんとわきまえているから。お酒は控えます」
リオン「酒ばっかり飲むな。姉さんの前では絶対に飲むなよ? ぶっ飛ばされるからな?」
シナモン「お二人とも尺……あわわ。5k文字遥かに超えちゃってます……」
ヴェロニカ「……はい。ごめんなさい。さてさてロクな配信できていないですが、シーズン3もよろしくお願いしま〜〜す」
リオン&シナモン「よろしくお願いします……ぺこり」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます