#09 帰宅、からの白井萌々香は『臭いお湯』をぼられる
「もうハル君のばかぁぁぁぁッ!!」
「……そんなこと言ったって、仕方ねえじゃん」
泊まろう泊まろうって、すげえ
まあ、分かるよ。夢の国だし? 聖夜だし?
なんなら、異世界転生した気分になっているし?
モテない俺が、ヴェロニカのような超絶美少女にほっぺたにキスされて、おかしいことになっているし?
醒めたくないのは、すんげえ分かるよ?
でもな……クリスマスイブにどこのホテルが空いているんだよ。
しかもレズニーリゾートだぜ?
それに、俺はヴェロニカの恋人の代わりにはなれないよ。
イブ効果だってことくらい自覚してるよ……悲しいくらいなッ!!
「ねえねえ、スペシャルスイートなら空いてるって!!」
「ダメです。そういう問題じゃない。俺とヴェロニカは雇用主と労働者だろ。それに、ふ、二人きりで宿泊なんて絶対にダメだろ」
「……あたしがいいって言ってるのに?」
「夢の国ムードに流されて、後で後悔するのはヴェロニーだぞ」
「……もう、ハル君のばかぁぁぁッ!!」
って調子が続いたが、どうにかヴェロニカを説得。
で、疲れたのか完全に寝やがった。しかも、俺の肩を枕代わりにしてさ……。
ヴェロニカが電車に乗りたくないって言い出して、渋々タクシーで帰るハメに。
理由は、特別な空気を満員電車で台無しにしたくないって……。
まあ、宿泊を思い留めてくれたのは良かったから、そこはヴェロニカに譲ろう。うん。
今度は、シナモンちゃんとリオン姉も連れてこような。
それなら泊まってもいいだろ?
「ヴェロニー? もうすぐ着くぞ?」
「うぅ……ん。ハル君だいしゅき」
「……なんて言った?」
バックミラーで運転手がチラチラこっち見てるんだけど、俺らってどう見てもクリスマスに浮かれまくったバカップルだよな……あ。
カチューシャ付けたままじゃねえか。
もう見慣れて自然すぎて忘れてた。
しかも、ピコピコ光ってやがる。
あっ!!
俺もかッ!!
それにしても、ヴェロニカはよほど楽しかったんだろうな。
ポップコーンのバケツを抱きしめながら、幸せそうに寝てやがる。
写真撮っちまうか。
パシャっと。
「お客さん、この辺りで?」
「ああ。はい。おい、ヴェロニー着いたぞッ!!」
「うぅん……え? ホテルは?」
「い、家だよ。ったく」
おい、運転手、絶対にホテル=ラブホって思っただろ。違うからなッ!!
健全な夢の国ホテルだからなッ!!
ああ、ほら、エロ運転手がヴェロニカを舐め回すように見てる……ったく。
ヴェロニカはどうも危機感っていうのがないよな。
そのうち教えてやらないと。
それにしても、歩きながら寝るという高度な技を披露しやがって。
し、仕方ないから肩、さ、触るからな。
い、いやらしいことなんて……これっぽっちも考えていないんだからねっ!
で……ヴェロニカの肩を支えながら……マンションのオートロックを解除して……エレベーター乗って最上階に。
って辛いわッ!!
いい加減起きやがれ。
ふぅ。ただいま〜〜〜リオン姉、シナモンちゃん助けてくれよ。
ヴェロニカが寝ちゃったんだ。
あらあら、ヴェロ姉お子ちゃまなんだから。仕方ないなぁ。ハル殿あとは引き受けた。気をつけて帰るんだぞ。ああ、ヴェロニカによろしくな。またな〜〜〜〜。
という予想は完全に裏切られた。
「……おい」
「あ。ハ〜〜〜ルさん♡ おっかえりなさ〜〜〜いビンビーン♪」
「ハル殿〜〜〜僕らの街のハ・ル・ドンドンドーンッ♪」
出来上がってやがる。リオン姉はともかく、シナモンちゃんが酔うとなると……。
って、ワインボトル10本以上、空じゃないかーいっ!!!
他に……ウィスキー……。芋焼酎……日本酒。
「ヴェ、ヴェロニー、起きろって。おいっ!!」
「……うぅん。ハル君だいしゅき」
「ダメだ。寝ぼけてやがる」
仕方ないから、ソファに寝かせてっと。よし定位置。
ダウンジャケットを掛けてやって、よし寒くない寒くない。
あ、あれ?
ヴェロニカに関しては酒なんて飲んでいないぞ。
なんだか……すげえ既視感があるな。
「ハルさ〜〜〜ん、一緒に飲みましょうよ〜〜〜」
「そうだぞ。ハル殿は酒に溺れてクワイエットする必要があるからなぁ」
クワイエットってなんだっけ。
っていうか酒に溺れていいことなんかないぞ。良い見本が目の前に二人もいるじゃねえか。
「ドンドンちゃんちゃんドンチャンドン。はい、はじまりました〜〜〜ハルさんのぉ〜浮かれた話が聞きた〜〜い♪ そらぁ聞きたい聞きたい、聞きたぁぁぁい♪」
「よっ! 今夜はあんたが大将ッ!! ヴェロニカとこんな時間まで何してきたのッ?」
「リ、リオン姉、わたし幻覚が見えます」
「奇遇だな妹よッ。私も見える」
「「猫の耳がッ!!」」
ダメだ。完全にイッちまってる。それは、レズニーのグッズ。ピコピコ猫耳カチューシャだ。
邪魔だから、シナモンちゃんの頭にでも付けておけ。えいっ!!
「し、紫音の耳が猫の耳。ああ、それ、聞きたい聞きたい、紫音の好きな人〜〜聞いてみた〜〜〜い♪」
「ほへ〜〜〜目の前にいるじゃないですか〜〜〜あれ、ハルさんが二重に……分身の術とはあっぱれじゃぁ〜〜〜褒めてつかわすにょろ〜〜〜」
……。
見なかったことにして帰ろう。ああ、それがいい。そうしよう。
「すまん。俺、帰らなきゃだし。ヴェロニーのことは頼む。じゃあ!!」
って、頼めねぇぇぇぇ!!
って、ヴェロニカはこのまま寝かしといてよくないか……。疲れて寝てるだけじゃねえか。
それよりも、この二人放っておいたらどっちか死ぬし。絶対に死ぬし。
……マジかよ。
「ハルさん、帰ったらダメです。家の前に魔物がヒッソンでいますからっ!!」
「そうだぞ。バブルスライムのひっく。はぐれメタルのひっく。バブルメタルのハル殿では勝てん、ひっく。」
なんだよバブルメタルって。っていうか、少し酒飲むペース落とせよ。
ほぼ一気飲みじゃねえか。
信じられねえ。
仕方ねえな……世話が焼ける三姉妹だ。
*
も、もう23時過ぎじゃない……雪がチラついてきたわね。
て、手が
な、なんで帰ってこないのよ。
ハル君の大事な大事な、萌々香という最愛の人が部屋の前で待っているのにッ!
まさか、まさかあの泥棒猫のヴェロニカとかいうきっしょい女に捕まっているなんてことないわよね。
もし、あたしからNTRしたら、あの女……拉致してキモい男を集めて狭い部屋に投げ込んでやるから。裸にして
ふふふ……。
「あーはっははは、どうだヴェロニカぁ!!! あたしの前で土下座するのよッ!! そして許しを
「おいッ!! てめえうるせえぞッ!!」
……え? ハル君の隣の住人かしら?
なに、この反社会的勢力を具現化したようなブサイク男は……。
スキンヘッドにヒゲが10センチ以上も伸びてるじゃない。
絶対に頭がおかしいのよね。
こういう男には関わりたくないわ。
そんな目で見ないで。
例え、妄想だろうとあたしを犯さないでくれるかしら?
視姦ってやつ?
キモいからやめてよね。
「ご、ごめんなさい……静かにします」
「うわ、汚ったねえぇ。鼻水垂らしてんじゃねえぞ」
な、誰が、鼻水なんて。これは、そ、そうね、涙よ。鼻から出る涙。
こ、このあたしが鼻水なんて分泌液を身体の中でこしらえるワケないじゃないの。
「おめえ、ここのオタク野郎の彼女か?」
「そ、そうなんです〜〜〜でも、なかなか帰ってこなくて」
オタク野郎? オタクなのは
万死に値するッ!!
葛島無能の助を使って、
「……クリスマスイブにか?」
「は、はい。それで外で待ってるんですけど。あたし、寒くて凍えて、凍死寸前なんです。も、もしよろしければ、何か温かい物をいただけませんか? お、お金なら払いますから」
「ほぉ。金払ってくれるのか。よし」
これで少しは温まるわね。
「持ってきたぞ」
「な、なんですか、この飲み物は?」
「湯沸かし器から出てきた高級お湯だ」
「……あ、ありがとうございます」
ごくっ……ぬるい。臭い。
なんなのこの液体。
真夏の水道水なのッ!?
っていうか、普通、温かいものって言ったらお茶とか紅茶とか、最低でもインスタントコーヒーくらい持ってくるもんじゃねえのかよ。ばーか。
どこの腐れケチ野郎だっつうの。
「ああ、そうそう、ガス代と水代が30円。人件費59970円な」
「……は?」
「だが、今日はイブだ。クリスマスセールってことで5万円引きの1万円な」
「そ、そんなはずないでしょッ!! これ、ぬるくて、しかも臭い単なるお湯じゃないのッ!!」
「払えねえなら、仕方ねえ。うちの店で働いて返してもらうしかねえなッ!?」
「み、店ッ!? な、なんの店よッ!?」
どれどれ。差し出されたチラシには……ちょ、ちょっと。
ふ、風俗店……それも、ガッツリな感じのお店じゃないの。
「ふ、ふざけないでよッ!! こんな臭いお湯で」
「なに騒いでんだよ」
な、なんなの。部屋の中から5人、ガラの悪い仲間が出てきたんだけど……。
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