#06 からの……NTRごっこ。@ヴェロニカは知りたい




——4日前。




「ヴェロ姉〜〜〜〜っっっ!!」

「どうしたの? 血相けっそう変えて」

「た、大変なんですっっっ!!」

「だから、なに?」

「ハ、ハルさんにお出かけ誘われたんですけど」




——は? 待って。あたしを差し置いて、なんでシナモンを誘うわけ?




「ちょ、ちょっと話を聞いてからにしてくださいっ! あわわ。ヴェロ姉、ま、待って。わ、わたしは無実なんですぅぅぅっ! そ、そんなので殴ったら殺人事件ですからねっ」

「……で? 言い訳はなに?」

「ご、ごめんぴーッ!! じゃなくて。ハルさん、ヴェロ姉のクリスマスプレゼントに悩みに悩んで、一緒に考えてくれないかって」



ふむふむ。



友人以上恋人未満ってことね。もし、ただの友人なら悩まずに適当な物でも買って贈ってくるでしょ。それよりは、シナモンに頼らざるを得ないくらい、ちゃんと考えているってことで多少好感度は高いはずよね。前向きに考えたら、準恋人ってとこかな。

うんうん、そういうことにしておこう。

……そうだよね? ね?



いや、ハル君って、鈍い上に多分NTR傷心で恋に対して多少、疑心暗鬼になっていると思うんだ。絶対にそう。そうとしか考えられない。



それに、あたしさ……経験もあまりないし、第一フラれたことがない。付き合ったこともないけど……。

だから、ハル君と同じ目線に立てないことが、ちょっぴり——悔しい。

ハル君の気持ちを知りたい。ハル君の痛みを知りたい。



ハル君の傷ついた心を知りたい。

ハル君……ハル君……少しだけでも、ハル君の気持ち分かってあげられたら……





——あたしを見てくれる?






「シナモンはどうなの? 行きたい?」

「……え?」

「ハル君とお出かけしたい? 一緒にあたしのプレゼント選びたい?」

「い、いや、行きたいとか、そういう気持ちは……これっぽっちも? ハルさんとお話したいとか、ぜーんぜん、ぜーーーーんぜんないですけどっっっ!! ああ、これハルさんから口止めされているので、絶対にわたしが話したこと内密にしてくださいよ?」

「……じゃあ、なんであたしに聞くのよ。内緒で行ってくればいいじゃない」

「だ、だって。ヴェロ姉……ハルさんに関わることは、じゃないですかぁ〜〜〜。それに、わたし達は……」

「一心同体。隠し事はなし、よね」

「……うん。だから」

「そうだね。ごめん。教えてくれてありがと。分かった。シナモン……お願いがあるんだけど?」



こんなことシナモンにしかお願いできない。

むしろ、ハル君のあたしに対するサプライズプランは神様がくれたチャンスなのかもしれない。



「えぇぇぇぇッ!? なに言ってるんですか。NTRごっこって。ヴェロ姉、やっぱりバカなんじゃないんですかぁぁぁ!?」

「し、失礼ね。それに本当にしなくていいからねっ!? 絶対にキスはダメ。もちろん、それ以上も。手を繋ぐくらいは許す」

「も、もし……絶対にあり得ないけど、もしハルさんがわたしを……その。わたしに……気持ちが……傾いちゃったら?」

「ふふふ……殺すッ!」

「ひぃぃぃぃ、笑っているくせに目が本気っっっ!!」

「冗談よ。そんなことにならないから大丈夫」

「な、なんで言いきれるんですか? わ、わたしだって、少しくらい魅力が……」

「……なんでねるのよ。とにかく、ハル君は大丈夫。むしろ、カワイイって思わせるくらいメイクバッチリめていきなさいよ? それに仕草も」

「なっ!? メイクは大丈夫ですけど、仕草は……わかんないですよぉ」

「いつもどおりで大丈夫だから。ハル君はシナモンのことをカワイイって思っても恋愛には絶対に発展しないはず。だから、むしろ本気出して行ってきて」

「な、な、なんで言い切れるんですか……」

「自己肯定感が低すぎて、自分と付き合ったら呪われるくらい思っていると思う。それに、中身は純情そのものだから……あたしの距離感でも、一ミリもなびかないでしょ?」

「そ、そうですけど……でも、わたし……やっぱりだって思ったら、できないです……。それに、二人きりでいたっていう事実は、ヴェロ姉の想像の中ではいくらでもNTR捏造ねつぞうできるじゃないですか」

「……なるほど。一理あるかも。よし、じゃあ」



胸ポケットに小型カメラを仕掛けて、ポケットWifiと繋いでライブ配信をすれば問題ないよね? 音声も入るし、映像でハル君も映るし。

これなら、シナモンもブレーキが掛かるし、身の潔白を証明できるでしょ?

あたしって天才っ♪



「ヴェロ姉ってNTR願望とかあるんですか……」

「ないッ! あるわけないでしょうがッ!」




——そして当日。




というやり取りがあったわけ。


レゾーネ川崎とか遠いよ……ハル君……ああ……天使とか叫びまくりやがって。シナモンまで浮かれちゃってさ。

あたしも天使って呼ばれたい。うぅ。シナモンと一日身体交換できないかな。



「ママァァッ!! へんなお姉ちゃんが柱の陰で忍者ごっこしてるぅ〜〜」

「しっ!! ダメよ。ほら、知らんぷりしていきましょ〜〜」



こっそり後を付けてきたなんて恥ずかしくて言えないよ。シナモンの前で余裕綽々よゆうしゃくしゃくでいたけど、実際に家で待っていたら発狂していたと思う。と自分に思い込ませて、自己暗示をかけるの。

これもNTRを疑似体験するため。



……ハル君は……見ちゃったんだよね。白井萌々香しらいももか葛島隆介くずしまりゅうすけと一緒に歩いているところを。しかも、から仲良く出てきたところを。



……ハル君がもし、このままシナモンを誘って夜まで時間を潰して街に繰り出して。

そうね、二人ともお酒強いし、一杯引っ掛けてほろ酔いになって。



『シ、シナモンちゃん……俺、ずっと、ずっと君が』

『ハルさん……じ、実はわ、わ、わたしも』

『今夜……いいかな?』

『え、あ、は、はい……どこにでもさらって……わ、わたしはもうハルさんのモノだから』

『じゃ、じゃあ、あそこで休んでいこう』

『……はい』



ああ……絶望とか失望とか、そういうレベルじゃないや……立ち直れないかも。

胸の奥がストンと抜け落ちて、穴が空いちゃう。

小型カメラを見ても、ハル君の顔がドアップに映って……シナモンの声が響いて……辛い。



辛いおーーーーっ!!

うわぁぁぁぁぁぁん!!


 

こ、これがNTRなの……うぅ。辛い。悲しい。切ない。しんどい。



「随分楽しそう……ハル君」



あたりめの話で盛り上がっているけど……。シナモンのプレゼントはあたりめでいいのに。

一番喜ぶじゃん……。

あぁ……見ていて辛い……もうダメ。涙出そう。ああ、カフェにでも入って現実逃避しよう。

うん、そうしよう。



コーヒーを飲んで落ち着いてっと。



スマホに撮り溜めたハル君の動画を……。ああ、この前の料理教えてくれたときの動画があった。うんうん。やっぱりハル君いいなぁ。

カッコいいし、カワイイし。何に対しても一生懸命なところがさ……。

あたしの指に絆創膏ばんそうこうを巻いてくれて……。

昔と違って、大きくなった手が優しくて。



あたしのモノだって勝手に思ってた。でも……今はシナモンと一緒に楽しく……。

うぅ……あたし以外の子に話しかけないで……どうしよう。

シナモンの言う通り、本当にハル君がシナモンを好きになっちゃったら、どうしよう。



なんという自己暗示ッ!?

やばい、完全に没入してたわッ!!

なんてことなのッ!?




「ど、動画なんて見て現実逃避しているわけにはいかないじゃないッ!!」




で、戻ってみたらプレゼントを買い終わった後……なの?

あれ……ハル君、あたしに何を選んでくれたんだろう。

小型カメラの映像は……っと。



ハル君と愛の共同作業(シチュー)動画見ていたから見れないじゃん!! 動画の保存設定してなかったッ!!




うわぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!

ハル君のばかぁぁぁぁぁぁッ!!

じゃなかった、あたしのばかぁぁぁぁぁぁぁッ!!




え、もうバイバイなの?

やけに早くない?

今日の午後はバイト入っていないはずだけど。

夜まで時間あるじゃん?

もっとシナモンと、ほら、デートらしいことしないと……あたしのNTRごっこが。



ああ〜〜〜ハル君……駅の方に歩いて行っちゃった。



「シナモン〜〜〜〜」

「わっ!! ヴェロ姉来ていたんですかっっ」

「うん、ごめん。いてもたってもいられなくて。ん? シナモンなんか泣いた?」

「な、泣いてないですよぉ。ただ、ほら、ちょっと風が強くて」

「……そう。それにしても随分早かったんじゃない?」

「だって……ハルさん……『リオン姉もいねえしヴェロニーに飯食わせてやらねえとな』って。それで……」

「……気にしないでご飯でも食べて帰ればよかったのに」

「それはできないって。これ以上はシナモンちゃんに迷惑かけるって。それに、ヴェロ姉に……内緒だってこと帰る間際に申し訳無さそうにしていましたよ?」

「え?」

「『俺、ヴェロニカに隠し事するのやっぱ苦手だわ。悪い。シナモンちゃん今度埋め合わせするから。今日はありがとうな』って。本当に馬鹿正直すぎですよね」





え……もしかして、あたしの……好感度計算間違えていた?

実は、思っていたよりもハル君のあたしに対する想いって強い?




って、あれ。飯を食わせてやらねえとな?



「ヴェロ姉は友人以上恋人未満というよりも、ペットのように可愛がっている感じなんですね……」




餌やらねえとな。って感じかよッ!!




「それな。って、喜んでいいのかな……」

「で、NTRごっこはどうだったんですか?」

「……辛いね。耐えられない。あたし、甘く見てたかも」

「ヴェロ姉……ハルさんに甘々なんですね。まさか同じ体験したいなんて」

「いや、実際はもっと壮絶だろうね。あたし、シナモンとリオン姉は完全に信頼しきっちゃってるからさ。あ〜あ……しっかしあの白井萌々香が許せないな〜〜」

「……ですねぇ」



家に帰ったら、ハル君が「おかえり。腹減ったろ?」ってオムライスを作って待ってくれていたんだけど、とりあえず飛びついておいた。



「は、離れろって。ソーシャルディスタァァァァァァンス」

「午後は、喪失感の分まで埋め合わせしてもらうからねっ!」

「ば、ばかッ!! オムライスがお、お、落ちるって」




ハル君の痛み、全部は分からないけど。

でも、分かってあげたい。いつか、必ず傷が癒える日まで……こうしてくっついていてもいいかな?




大好きだよ……ハルくん。


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