#03 キャンディ・ストラテジーチャンネル
虫も殺せないような心の
ただ、リオン姉が魅音さんに憧れて格闘技をはじめたって言うんだから本当なんだろうな。
これからって時に病気を発症して、リングを降りたって。それで、心機一転して作家を目指したらしい。そして生まれたのが、『移りゆく季節に車輪を
「だけど、なんで隆介が著者なんだ?」
「あいつがパクったから」
「……は? あいつ、そんなことまでしてたのか?」
「うん。あたし達は魅音姉の作品をパクったクズ男を絶対に許さないの」
「『社会に優しい目を向けて。
「その主催が、あいつのいた広告代理店だったってわけだ。姉さんは、そうとう格闘技も強かったけど、中身はホワホワだから。作風もそうだろ? とにかく良かったらしいんだ。だから、目を付けられて」
「……車輪を漕いで、か。確かものすごく純愛で
「だって、実話だもん。主人公が男の子でヒロインが女の子でしょ。それを逆にしたのが魅音姉の話。ハル君読んだんだ?」
「いや。読んではないけど、アニメになるっていうからドラマの方は観たぞ。確かに
「うん。そう。あの車椅子の男の子が魅音姉で、ヒロインが付き合っていた彼氏」
「魅音姉は……思い出まで奪われちゃったんです。あの物語は……亡くなった彼氏を想って書いた大作だったのに……」
え……。
さりげなく、とんでもないこと言わなかったか?
彼氏が亡くなったって……魅音さんの?
だからあんな悲しい話を書けたのか……。
言われてみれば、隆介に小説を書くような感受性があるようには思えねえな。まして、福祉向きでもなければ、純愛なんて興味なさそうだし。
それで、ヴェロニカたちは隆介に因縁があるって言っていたんだな。
「それで、どうするつもりだ?」
「まずは泣き寝入りしている声優たちの無念を晴らすの」
「お待たせいたしました〜〜〜八宝菜のお客様〜〜〜」
「は、は〜〜い!!」
そんなに八宝菜が食いたかったのかよ。しかも、お、おばちゃん指入ってるからね?
このご時世に指はダメだろう……。
「次にロースカツ定食のお客様〜〜〜」
「私だ」
ヴェロ姉も細い割に大食いの部類に入るよなぁ。ロースカツもデカイけど、ご飯も大盛りすぎて俺なら絶対に食えない。それに、食っている途中、絶対に米落ちるよな。
「ネギマとレバー、アジのたたきに焼き鳥の盛り合わせ、それにビール大ジョッキのお客様〜〜〜?」
「え? 俺頼んでないよ?」
「わ、わたしです……」
「……は? まだ11時過ぎだよね? 朝飯兼ねてって言ってたよね? なに、この『飲みます。わたし♡』的なオーダーは……」
「恥ずかしい……キャッ♡」
完全におっさんだ。昼間から飲んだくれているおっさん。中身はおっさんに違いない。シナモンの超絶美形童顔からは想像もつかないだろうけど、俺は
「お茶漬け定食のお客様」
「ああ、俺、俺」
「ハルさんだって、飲み会後の締めに食べるようなご飯じゃないですか」
「ハル君、それで足りるの?」
「……一番安いから」
「「「……」」」
え、なに?
なんでヴェロニカ、そんなに悲しそうな顔するんだ……?
「ねえ、給料は渡したよね? 普通に暮せば何の不自由もなく暮らせるお金渡したよね? あのお金はどうなったの?」
「え……えっと。その」
「まさか、女の子のいるお店とか行ってないよね? いかがわしいお店とか入ってないよね? 今まで持ったことのない金額に浮かれて、誰かに
ひぃぃぃぃぃこえええええ。ヴェロニカがこめかみに血管浮かせて怒っている。
マジでキレる5秒前ってやつだ。
い、いや、俺、み、み、貢いだりしてないから。ほ、ほ、ほ、ほんとだぞ?
「ヴェ、ヴェロ姉……落ち着いて。ハルさんがそんな度胸のある人に見えますか?」
「そうだぞ。ハル殿は夜の街すら歩けない小心者だろう?」
人を馬鹿にして。俺だって、それくらいの度胸あるわッ!!
し、しないだけで。ほ、ほんとだからねっ!!
「嘘よ。ハル君の顔は嘘をついてる。どこの馬の骨に貢いだのよッ!! 答えてッ!!」
「み、貢いでなんかい、いな、いない」
「
「ひぃぃぃ。話します話します。投げ銭です。Vtuberに投げ銭して……」
「……やっぱり貢いでるじゃないッ!!」
「貢いでなんていないだろ。ある意味循環だ」
「……は? なにそれ?」
「俺が投げ銭してるのは、パーティー・ライオットだ」
「え、ま、待ってください。じゃあ、ハルさんはパーティー・ライオットから出た給料をパーティー・ライオットに投げ銭しているってことですか? それって、ブラック企業のすることみたい……」
「そうそう。通販サイトのバイトが給料天引きでそのサイトからガラクタ買わされるやつな。さすがシナモンちゃん。よく知ってる〜〜〜っ!!」
「ば、ばかなの? 投げ銭なんてしなくても、あたしは……ハル君のぉ……」
なんで急にモジモジしてんだよ。
「分かった。投げ銭そんなにしてくれたなら、サービスしなくちゃ。えいっ」
「だ、だからくっつくなって。距離感ッ!! ソーシャルディスタァァァンスッ!!」
あ、あれ。結局なんの話をしていたんだ。
「こほん。だから、あいつをもっと
「……犯罪はダメだからな?」
「大丈夫。暴力には頼らないし、詐欺行為もしない。約束する」
真っ直ぐな目をして言うからには、ヴェロニカの言葉は本当なんだろうな。信じるしかないだろう。
*
しかし馬鹿だねぇ。本当に馬鹿だと思うよ。
彼氏を作ったアイドル声優が、その彼氏とのチョメチョメの最中の写真をネタにゆすられて俺に喰われる。しかも、隆介さんのプロダクションにそのまま引き取られるとか。
うまく話を
今度は妹をターゲットにされて、それをネタに泣く泣く移籍とか。笑える。
ちなみに、その彼氏は俺が用意したホスト。まあ、顔はいいけど性格は最悪なんだな。みんなひょいっと騙されちまって。
ん?
スマホがやけに騒がしいな。なんの通知だ?
隆介さんからのメッセージか。
なになに?
はぁ? 意味分かんねえ。
『
何焦ってんだ。
どれどれ。URLをポチッと。
*
「みなさんこんばんはぁ♪ この度、パーティー・ライオットの妹分としてチャンネルを立ち上げたキャンディ・ストラテジーチャンネルのキャンディです。以後よろしくにゃん! さてさて。このチャンネルは、Vtuberとしては珍しい暴露系のお話をしていきますにゃん!」
な、なんだこのキャラは。中身はヴェロニカと同じ……か? いや、シナモンか? 違うな。リオン? それも違う。全くの新キャラか? パーティー・ライオットの妹分?
とにかく、わけが分からん。
「はい、早速ですが匿名さんからネタが上がってきましたっ。なになに? この前、にゃんにゃん写真で痛い目に遭った
久米夢実を嵌めた奴……俺じゃねえかッ!!
正確には、俺とホストの
「久米夢実は……実は脅されていた? え? 移籍について?」
このキャンディとかいう女? いや、本当に女かどうかは知らんが、マイクの向こうで誰かと会話しているような感じだな。パーティー・ライオットと違って、映るキャラは1人しかいないが。
「まさか、それって。ええ? みなさん、とんでもないことが発覚しました。久米夢実は彼氏がいました。それは知っているって? うんうん。その彼氏がどうやら自ら写真を撮って、久米夢実を脅していたんですって。だって、アイドル声優って、彼氏がいただけで命取りなんでしょ? それに加えて、あの写真ですもの」
だが、証拠がない。あくまでも噂だろうよ。その程度の情報なら、隆介さんがなんとかしてくれる。
「うんうん。つまり、その彼氏は初めから久米夢実を
1.アイドル声優の久米夢実は恋をした。そして彼氏と付き合った。
2.彼氏と仲が発展して、チョメチョメをしたところ写真をパシャリ。
3.なぜか週刊誌に写真が出回る。
4.事務所移転。
「つまーり。2と3の間に何かしらの交渉があった挙げ句、決裂。4に至るまでにもっと酷い脅しがあったと考えるべきってことね。おっと、時間だにゃん。次回は調査を踏まえて考察をしていきたいな。ってことで、この辺で今日はバイバイだけど、みんなチャンネル登録よろしくねっ!」
ふ、ふざけんなよ、このクソチャンネルがッ!!!
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