#13 明かすヴェロニカの正体
「家族なの」
「そういう設定?」
「ううん。本当に」
ヴェロニカが、リオン姉とシナモンちゃんに目配りをした。やっぱり何か隠してるぅぅぅ。やべえええ。どうしよう。劇場型の詐欺を謀るなんて。
「まず、チョコレート・ヴァーミリオン姉さんは、
「……待て。なんで本名を暴露したんだ?」
「家族を紹介するのっておかしいこと?」
「待て……本当に家族なのか?」
「……
「なんで俺にそれを? なんで俺に心を許すんだよ? もし、俺がとんでもない悪人でパーティー・ライオットを悪用して犯罪を犯すような人物だったらどうすんだよ!? 情報は漏らしてはダメなんだ。いくらでも成りすませるだろ!?」
「そ、そんなわけないじゃん。ハル君は……ハル君はそんなことしないよ」
「前から聞こうと思っていた。なんで俺を『ハル』って呼ぶんだ? 俺の何を知ってる?」
「……知ってるんだもん。だって、あたし——」
「簡単に人に本名なんて教えるな。特に俺のような赤の他人に教えてどうする? お前はパーティー・ライオットっていう大人気Vtuberの、あのヴェロニカだぞ。だからこそ、慎重になってほしい。今後、俺みたいな怪しいやつを簡単に家に上げるな。」
「……あ、あたしね。聞いて、ハル君。あたし」
「ヴェロニカ。俺は単なる
「……なんで聞いてくれないの。ハル君」
顔を両手で
「リオン姉……ヴェロ姉ヤバイよ」
「シナモン、頼めるか?」
「う、うん」
シナモンが後を追いかけていく。俺、酷いこと言っちゃったのかな。
「なあ、ハル殿」
「……うん?」
「ハル殿は、ヴェロニカのことを思って言ったんだよな?」
「え?」
「ヴェロニカの身を案じての発言だろう?」
「……はい。俺、怖くて。当然、何かをしようとかは考えていないけど、もし、今後俺みたいなやつが現れて、憐れんで俺と同じように接したとき、そいつは信用に足りる奴なのかどうかって」
「本当にハル殿は慎重なんだな。大切に思えば思うほど人は
「……はい。ヴェロニカは俺のすべてでした。それは今でも変わりません。こうして接していたら、余計に想いが強くなってきたっていうのもあります」
「ヴェロニカはまだ23という歳の割に多大な苦労をしてきた。失くしたものが多すぎて、私達とごく一部の人間以外信用しない。信じられないかもしれないが、それがヴェロニカという人間だ。あいつは、死ぬ選択を考えたこともあったそうだ。だが、それをさせなかったのは、あいつの心の中を照らす存在があったから。その存在について聞いてみるといい。ハル殿、今一度、ヴェロニカの話を聞いてやってくれないか?」
「……俺、また自分の価値観を押し付けちゃったのかな」
「ハル殿の考えも正しい。正論だろう。価値観を押し付けたい気持ちも分かる。だが、それはあいつの話を聞いてからにしてくれないか? そして、」
——あいつの名前を聞いてあげてくれ。あいつはそれを望んでいるから。
扉が開いて、シナモンちゃんが戻ってきた。それも血相を変えて。
「ヴェ、ヴェロ姉が、ヴェロ姉が外に飛び出していっちゃった——」
「どこに行こうとしてるんだ?」
「どこだろう。嫌なことあるといつも一人でどこか行っちゃうから」
「あそこか。分かった。俺が迎えに行ってくる」
*
時刻は21時30分を過ぎたあたりか。こんな時間に店がやっているわけ……。
キャットウォークの片隅にある雑貨&家具屋の看板がさ、筆記体バリバリの英語で読めねえ。よって店名分からんけど、ハイセンスなことは分かった。
明かりは点いているな。
でも、フックサインっていうのかな。ほら、ドアノブに引っ掛ける看板みたいなやつ。Closeのフックサインが引っ掛けられていて、開けていいものか悩む。
音よ鳴るな。
ギィィィィィィィ。
鳴りやがった。
うわぁぁぁぁん。
不法侵入者じゃないです。盗みに入ったんじゃないです。ただ、ただぁ。俺はヴェロニカを迎えに。
え?
なんか慰められている? ヴェロニカがソファに座って、あのおっさん店長がその前で膝を折ってしゃがんでいるのな。ま、まさか。
——あ、あ、あれがヴェロニカの『心に決めた人』なのかッ!!
うそだぁぁぁぁぁ。嘘だと言ってくれ。
年の差、40以上あるじゃねえか。
リオン姉の言っていた、ヴェロニカの心を照らす人。確かに。頭頂部が光を受けて照らしているけどっ!
って、違う。なんで俺はこう、ふざけてしまうんだろう。
おっさん店長、
「ヴェロニー……俺、応援するよ。お前がどんな人を好きになっても」
このまま、愛を育んでくれ……ゆっくりと扉を閉めよう。静かに。絶対音鳴るなよ。鳴るなって。鳴るなって、言ったからな……!!
ギィィィィィ!!
「おーい。さっきから何してるの。入っておいで」
お、おっさんに気づかれていたか。しまった。このままでは空気の読めない男になってしまう。すまない、ヴェロニカ。
「君か。ハル君だよね? ヴェロニカちゃんの例えは言い得て妙もいいところだね」
「……え? 俺のこと話していたんすか?」
「うん。もう1年くらい君のこと聞いているかな。本当は頼りがいあるのに、些細なことでビクビクしちゃう子ってね。うん、かっこいいじゃないか」
「いえ。そんなことは。あ、ヴェロニー」
顔を上げたヴェロニカの目が真っ赤。ウサギかよ。っていうか、泣いていた?
ああ、泣かせてしまったか。ごめんな、ヴェロニー。
「ハル君……ひっく。ごめんね。びっくりさせちゃったね」
「い、いや。俺の方こそ。俺、ヴェロニカの話を聞かずに一方的に自分の想いをぶつけて。最低だった。ごめんな」
「ううん。あたしが悪いの。ハル君の家を訪ねたときにすべてを話せばよかったのに、しなかった。出来なかったの」
「……?」
「ハル君が傷ついているのに、そこに付け入るようなことはしたくなかったっていうのが一つ。もう一つは、欲が出ちゃったの。ハル君がパーティー・ライオットのファンだって知ったときは心臓が潰れるかと思った。それで、目の前でライブ配信を見てもらおうって。それから自分の正体を明かそうって」
「……よく理解できないんだが、リオン姉の言う『心を照らす人』と正体を明かすことに何か関係があるのか?」
「うん。あたし、ハル君がいなければきっと絶望して今みたいな性格にはなっていなかったって思うの。ハル君をいつか必ず探し出すって想いがあったから今まで頑張ってこられたんだと思う」
「なんでそんなに俺にこだわるんだ? 俺は、単なるバイトの中途半端野郎だぞ? そんな野郎がヴェロニカを泣かして。最低だな俺」
「違うよ。全部違う。ハル君はあたしのこと大事に想ってくれているんだって分かったから泣いたんだよ? 話聞いてくれないとか、そういうことじゃないからね? ハル君の言うことはもっともだもん」
優しんだな。ヴェロニカは。
だって、そうだろ。泣いたのは俺が話を聞かずに考えを押し付けたからなのに、嬉し泣きだったみたいな言い方をして。
俺を傷つけないように言葉を選んでいるよな。
なんだよそれ。なんでそこまで俺のために?
「でもね、ハル君。決定的にハル君の思い過ごしがあるの」
「……俺の思い過ごし?」
「うん。あたし」
ヴェロニカは立ち上がり、俺と向き合い目と目が合う。瞳は涙でキラキラして、まるでガラス玉のように煌めいて。すごくキレイだ。
ヴェロニカ——俺も、お前と会えて本当に嬉しかった。本当に幸せだった。
お前がいなければ、俺はひがんで絶望して、何かに、誰かに、すべてに恨みを抱いて一生荒んだ生活を送っていただろうな。
やばいな。このままだと、好きになっちまう。
「あたしは……ね。あたし——」
——
み、み、みう……。美羽が目の前に。あのヴェロニカが、美羽?
美羽、美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽美羽ッ!!
嘘だろ? 頭が真っ白だ。
「……えっと」
「だから、美羽」
「……は?」
「だから、美羽。みぃ〜〜〜〜うぅぅぅぅッ!! 九頭竜美羽っ!!」
「俺の知っている美羽は、これくらいで、可愛らしい顔してて。えっと、小学生だったはず。もっともっとちびっ子だったはず」
「……あれから14年くらい経っているんだから、成長するよね?」
「……ファッ!?」
少しだけオーバーヒートした頭を冷やす時間がほしい。
あの美羽が俺を探してくれたってことで間違いないよな?
そこまでして、俺に会いたかったってこと?
そうか。すべて合点がいく。
言われてみれば大きな目とか、面影があるような。
美羽と別れた
もう会えないと思っていたのに、こうして俺の前に現れてくれた。
美羽、俺、あのとき、もっと話したいことがいっぱいあったんだ。
言いたいことがあったんだ。
俺、美羽のことが——だった。
「ハ〜〜〜ル君? 約束覚えているよね?」
「や、約束……」
「うん。あたしがピンチのときは助けてくれるって」
「あ、あ、うん」
美羽は、俺だから、俺のことを心配してくれて。慰めてくれて。笑ってくれて。
優しく……接してくれて。
ありがとうな。本当にありがとう……な。
「ハル君。今度はね」
「……?」
「あたしがハル君を守る。やられたらやり返す。あたし強くなったんだよ。だからハル君、あたしと一緒にいて? あたしも家族ができたし、すごく信頼できる人たちなの。だからハル君、お願い。あたしと——」
「……ごめん、頭が混乱して麻痺してる」
「えいっ」
抱きつかれている。俺は抱きつかれている。温かい。温もり。
——ファッ!?
「ちょ、お、おまッ!! 『心に決めた人』がいるのに、こんなことばっかりしていいのかよッ!! ソーシャルディスタァァァァァァァァァンスッッ!!!」
「……そこは相変わらずなのね。ま、焦らずゆっくりでいっか。あ、帰ってシチュー食べなきゃ。冷めちゃったかな」
「ああ、温めれば大丈夫だろってはぐらかすな。はーなーれーろーッ!」
はっ!! そういえば。おっさん!!
存在を忘れていた。
恐る恐る横を見たら、おっさんが生ぬるい目で俺とヴェロニカを見ている。
「……どうしたの? ハル——あッ!! ああああ。
「ヴェロニカちゃん、良かったねぇ。おじさん嬉しくて涙出てきちゃったよ」
「このおっさんが心に決めた人なんだろ。うわああああんっ!!」
「「えっ!?」」
榊さんは児童養護施設の管理者をしていた人らしい。今は定年を迎えて第二の人生を送っているとか。
「あたし達ね、榊さんにお世話になったんだ。リオン姉もシナモンも、あたしも施設出身だから」
「えっとー……」
親戚に引き取られてたはずなのに、なんで施設に……?
そうか。そういうことだったのか。
リオン姉さんが「ヴェロニカも辛いことがあった」って言っていたな。
「ごめん。榊さんを『心に決めた人』とか勘違いして」
「もう、ほんっとにおかしい。ああ、思い出しただけでお腹痛い。涙出てくる」
「俺もおかしいって思ったんだ。さすがに年齢差あるし」
「榊さんはお父さんみたいな人。この雑貨屋兼家具屋を開いてから、よく遊びに行っているんだ。もちろん、昼間話した、家具の匂いの話は本当だけどね」
「そっかぁ。榊さん良い人そうだもんなぁ」
「うん。いつも話を聞いてくれるの」
「良かったな! そういう人って大事だもんな」
美羽のことは変わらずヴェロニカと呼ぶことにした。それを美羽が望んだから。理由は分からないけど、今はまだ美羽だということを心に留めておいてくれればいいって。
「さて、ここから逆襲が始まるから。ハル君、楽しみにしていてよね」
……なにするつもりだよ。
————————————
♪Now on air.
Channel by 「Party Riot」Extra edition♪
ヴェロニカ「はい、Season01はここまでっ!!」
リオン「メタ発言禁止だろう……いいのか?」
ヴェロニカ「ここは物語の外の世界なので。配信はなんでもありさ〜〜〜♪ さて、みんなっ!! おもしろいって思ってくれたら、遠慮なく☆をくれたまえ!!」
リオン「いちいち偉そうだぞ。それにあからさますぎる。そんなんだからPVの割に評価伸びないんだと思うんだが?」
シナモン「ぶっちゃけ、ヴェロ姉とハルさんのラブコメが長いんだと思います……」
ヴェロニカ「ファッ!?」
シナモン「さて、Season2はこのあとすぐです。ここでヴェロ姉からご挨拶っ!!」
ヴェロニカ「みなさま、たくさんの応援♡と☆、それにコメントありがとうございましたっ!! あたしの策略に見事に嵌ってくれちゃっ——」
リオン「言い方。お前はほんとにいつも……」
ヴェロニカ「こほんっ。もし面白いって思っていただけたなら、☆を頂けると嬉しいにゃん♪」
シナモン「にゃ、にゃん?」
ヴェロニカ「あわわ。最近新キャラを演じてて、変な癖が」
リオン「いいから。早くしろ。押してるぞ、巻きで」
ヴェロニカ「レビューも気兼ねなくお願いしたいにゃん♪ 一言でもいいんだよ? 『それな。』って一言レビュー書いてくれれば面白いのに」
シナモン「ほ、ほんきですかそれ?」
ヴェロニカ「うん。むしろ嬉しい。『それな。』ってみんな書こ? みんなで『それな』って一言書いたら面白いと思う」
リオン「そんなこと言っている間に時間来たぞ、バカ」
ヴェロニカ「ああああ、全然言いたいこと言えてない。あたしの欲しい物リストの列挙とか」
シナモン「ヴェロ姉ッ!!」
ヴェロニカ「……調子乗りました……さて、それではSeason02はこの後すぐ」
ヴェロ&シナモン&リオン
「「「「これからもよろしくお願いしまぁーすっ!!」」」
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