#11 生配信はアドリブなの?


「みなさ〜〜〜ん、こんばんは〜〜〜!! 今日はライブですよライブ!! キャラメル担当ヴェロニカで〜〜す」

「チョコレ〜〜ト担当のヴァーミリオン、リオン姉さん推参すいさんッ!!」

「シナモン担当、エンデューロでしゅ……」

「相変わらず緊張してるねぇ、シナモンちゃん」

「だ、だってぇ。生配信なんだもん」

「ライブじゃなくてもいつも緊張してるだろ。緊張しないコツ教えてやろうか?」

「あ、それあたしも聞きたい!! リオン姉、教えてっ!」

「知りたい、でしゅ。ああ、また噛んだぁ〜〜」

「瞑想だ。毎日、スパーリングの後に瞑想をするんだ!!」

「うあぁ……それ寝ちゃう。あたし寝ちゃうんだそういうの。そうじゃなくてもリオン姉のスパーリング激しいのに」

「瞑想するような静かな時間くだしゃい……お姉さま方」

「はい、今日は質問に答えるコーナーです。質問は前回の番組のコメント欄から抜粋してお答えします。後半ではみんなからの質問にもちょっとだけ答えるね♡ まず一人目。えっと、@キャサリンハム次郎さんより。『毎度疑問なのですが、キャラメル担当とか、チョコレート担当とか、シナモン担当とか何なんですか? 意味が分かりません』。はい、あたしも聞きたい」

「「おいッ!!」」

「えっ!? 二人とも知らない?」

「それは、ヴェロ姉さんが企画したんじゃ……」

「お前が知らなきゃ誰も知らないだろう……」

「まじ……設定忘れちゃったぁ……」

「「……」」

「あはは。うんとね、楽しいお菓子スウィーツパーティーっていうのがモットーだったような。ほら、お菓子スウィーツ食べながらまったり行くっていう感じなの?」

「わ、わたしに聞かれても。リオン姉?」

「ふ、振るな。お菓子スウィーツパーティーなんて初耳なんだが」

「そんな感じでお菓子スウィーツの名前もらっちゃいましたぁ。はい。次の質問で〜〜す!」

「いいのかそれで」

「@クラーケンの足さんより。『お三方、こんばんみー!! お三方は本当の姉妹なんですか? それとも設定ですか? 中身は有名声優さんですか?』。おっと。プライベート踏み込んだ質問来ちゃったよ。ぶっちゃけ、あたしは血がつながっていないですね」

「私とシナモンはガチの姉妹。これ言っていいのか? ヴェロニー?」

「まあ、いいんじゃないの?」

「相変わらず適当しゅぎ……ヴェロ姉、行きあたりばったりだから」

「あはは……中身が有名声優かどうかって? それはご想像にお任せで〜〜す。あ、中身おっさんではないことは確か。声はボイスチェンジャーとか使っていないので」

「いやいやいや。そこ本当な? よく言われるんだけど。特に私。リオン姉はおっさんなんじゃないかって。マジで失礼だからな?」

「はいはい、そこっ! メタ発言NGですからねぇ〜〜」

「言い出したのはヴェロ姉じゃないでしゅか」

「中身は一途な処女です。これ、ホント。マジ。本気と書いてマジ。一途に恋してるんだから♡」

「ちょ、ちょっと、ヴェロ姉、そんな事言うから、コメント欄が大変なことにッ!! 相手は誰だって荒れちゃったけど」

「お、おま、暴走しすぎ」

「みんなに恋してるの♡」




結局、午後1時から2時間ほど引っ越し屋のバイトのヘルプをしてきた。クソ重い冷蔵庫を一人で持ち、アパートの三階まで階段を上るとかさ。疲労感半端ない。

でも、配信を、それも生の配信を目の前で見ていたらどうでもよくなるほど、疲れなんて吹っ飛んじゃうよな。



生食パンならぬ、生配信を見ている。マンションの隣の部屋も借りていて、そこがスタジオとか仕事部屋なんだけどさ。4人がけのテーブルを仕切って、高そうなマイクを三本立てているんだけど、なんだかラジオみたいなんだよな



マイクには相当こだわりがあるらしい。だから声につやがあるっていうか、元の声のままというか。リオン姉さんは色っぽく、シナモンちゃんは可愛げがあって、ヴェロニカの声はすこぶる明るい。それが耳にダイレクトに伝わるのよ。

ヘッドフォンをしているとなおさら。悶絶死しそうになる。



部屋の片隅で体育座りをしてながめてるんだけど、夢の中の出来事みたいで涙が出てくる。だって、膝の上のタブレットではそれぞれキャラクター達がキャッキャって会話しているんだけど、目の前にはその中身の人たちが楽しそうに会話してるんだぜ?



しかも、キャラクター達にそっくりな美少女たちが。ああ、マジでありえねえ。



キャラと動きの担当はシナモンちゃんらしい。動画の編集と音声はリオン姉さんが担当。ヴェロニカはシナリオらしいけど。




シナリオなんてほぼねえじゃん。アドリブの嵐だろ。




しばらく質問に答えているけど、コメント欄が白熱しちゃっていて、収集つかない状態。

ぶっちゃけ過ぎなんだと思うけど、それがパーティー・ライオットの人気の秘訣だしなぁ。



それにしても、タブレットに映る3人とも可愛いなぁ。仲良し三姉妹と同じ時間を共有できることが幸せすぎる。どんなに嫌なことがあっても、この時間だけは誰も奪えない。うん、彼女たちと同じ時間を共有することができるなんて、嬉しすぎる。

毎回、ライブ配信のときにはそう思っていたよ。

コメントもいっぱいしたし、質問も入れまくったさ。



それが、その一歩先に俺はいる。夢か?

夢なのかァァァァッ!?

痛ッ!!

頬つねったら、激痛だった。



「今日は雑用のスタッフが間近で見ているんですけど、はぐれメタルみたいな顔になっています」

「どっちかっていうとバブルスライムでしゅ。ヴェロ姉、ドラクエしたことないくせに」

「うぅ。人の弱みを攻撃してからにぃ〜〜〜」

「そもそも、はぐれメタルってなんだ?」



俺に言及しないで。これ以上暴露ばくろされて、存在がバレたら外歩けないからね? 八つ裂きの刑だからね? きっと三人はピンと来ていないだろうけど、男だと知られたら大炎上もいいところだからさ。お願いだからやめて〜〜〜。



そんなこんなであっという間に三〇分。貴重な時間だったなぁ。と思い出して幸せをみしめる。ほうけていると、「ハル君♡ どうだった?」と背後から声が。



なぜ背後!?



ソファの後ろにわざわざ回り込んで、俺の顔の横から顔を出すなよ。ヴェロニカ。

距離感が近すぎるって。この家の人達ソーシャルディスタンスを教え込まねばなるまいッ!!



「ち、近いって。う、うん。良かったよ。ディスプレイと目の前と落差らくさが全く無いのには驚いたなぁ。まるでラジオの公開放送見ているみたいだったよ」



実は、足繁あししげく大好きな声優のラジオの公開録音イベントに通っている。公開録音以外にもイベントに熱を入れていて、その数が多いためにバイトをセーブしているなんて、まさか言えまいッ!! 

って威張り腐っている場合じゃねえけど。これは誰にも言えない俺の秘密だ。



「ありがと。ハル君に褒められると照れちゃうな〜〜」

「こら、ヴェロニカ。ハル殿が困っているだろ。少しは距離感を学べ。格闘技と同じ、相手のふところに入ればいいってもんじゃないんだぞ」



あ〜〜あ。リオン姉に無理やり引き剥がされて、持ち上げられて手足をバタバタさせちゃって。子どもかッ!?



「今日はもう収録しないの?」

「ええ。撮り溜めしている分がかなりあるので。それに、ヴェロ姉がパーティーしたいってきかないので」

「ああ、朝から言っているもんね。シナモンちゃん、俺も料理手伝うよ」

「え? いいですよぉ。そんなことしたらヴェロ姉に朝から風船を耳元で割られる刑になっちゃいますし」

「なにそれ怖い」

「それに、料理は持ち回り制なんです。今日は朝からわたしなので気にしないでください」

「じゃあ、ヴェロニーとリオン姉もするの?」

「ああ、いえ。ヴェロ姉さんの料理の腕は壊滅的なので。ただ、今は覚えたいらしく必死に努力していますけど」

「じゃあさ。シナモンちゃんもゆっくり休んでよ。俺が料理振る舞うよ」

「えぇ!? ハルさん料理できるんですか?」

「バイト掛け持ち舐めてもらっちゃいけないよ。創作料理店では厨房任されるほどの腕よ!」

「すごい。なんでもできるんですね! じゃあ、ヴェロ姉に聞いてみます」

「……許可いるの?」

「ハルさんのことだけは、勝手に決めるとねて泣きながらベッドに入って口をきいてくれなくなっちゃうので」



スタスタとヴェロニカのもとに駆けていくシナモンちゃんを横目に、スタジオの風景を見る。ここが俺の唯一の癒やしだったパーティー・ライオットの制作現場か。

俺、ここで働いて、嫌なことあったらどこに逃げ込めばいいんだろう。

パーティー・ライオットにはもう逃げ込めないよな。

だって、今まで外側から見ていたのに、内側に入っちゃうんだぜ?



「ハルさ〜〜〜ん。大変ですッ!!」

「ど、どうしたの?」

「ヴェロ姉も一緒に手伝うって。覚悟してください……」

「ああ、まかせ——ああ、ダメだ。ヴェロニーはソーシャルディスタンスの言葉の意味が分からないんだった」



要するに邪魔という……。

包丁使うには危ないだろ?


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