NTR傷心中の俺とVtuberユニット「P・ライオット」の復讐譚
月平遥灯
Chapter01 キャンディ・ストラテジー
Season01 再会の幼馴染
#01 キャラメル・ヴェロニカ
彼女が寝取られた。
相手は大学のときの親友——だと思っていた奴。
ヘルプで入っていた居酒屋バイトで、店長が気を
彼女——
正直、涙も出なかった。まるで現実味を帯びていなくて、自分の周囲二メートル先がまるで映画のワンシーンのようだった。その
白井萌々香は大人気声優だ。そんな大それたアイドルのような存在と自分が付き合えていたことがすでに嘘くさかった。
付き合うきっかけはまさにボーイミーツガールを絵に描いたような出会い。
地元に帰省する際、特急電車の指定席の隣が彼女だった。
本当に可愛かった。
真冬に白いコートを着て、白いふかふかのベレー帽を被った彼女が指定席の隣に座ったときは心臓が飛び出すかと思ったよ。
透き通る肌に
同じVtuberユニットが好きということもあって意気投合。その後も連絡を取り合い、あれよあれよという間に付き合い始めた。
その後、しばらくしてアイドル声優としてデビューしたときはびっくりしたけど、全然気取ることなく付き合ってくれて嬉しかった。
いつも優しくて、俺の腕の中ではにかんでいた。
少しだけ
それが、それが……なんで。
時間が経つにつれて
クリスマスまであと一週間。
街は光で彩られて、甘い
胸の奥がぎゅぅって締まって、世界のすべてを否定したくなった。
こんな不条理なことがまかり通るような世界なんて隕石が降ってきて滅べばいいのに。
手をつないだ萌々香と隆介は互いに顔を見て笑って、肩を寄せ合った。隆介の肩に頭を乗せた萌々香の腰に手を回した隆介は、彼女を大事そうに優しく包んでいた。
——俺が見ているとはつゆ知らずに。
滲んで前も見えない中、安アパートの玄関の扉を開く。片付けていない朝と昨晩の洗い物が山積みなったシンクを横目にベッドに飛び込んだ。枕に突っ伏したまま
俺のテレビはデカイ。
二七インチもある。すげえだろ。
庶民の中では最高にデカくて、俺の中で唯一自慢できる財産だ。そう、このテレビをネットに繋げば彼女たちに会える。
Vtuberユニット『パーティーライオット』だけが俺を癒やしてくれる。
彼女たちがいれば、萌々香なんて。萌々香なんて——いらない。
ヴェロニカに会いたいッ!!!!
リモコンのゴムボタンを思い切り押す。反応が悪いんだよな。ムカつくぜ。
爪をゴムボタンに食い込ませて押し込む。
『ケンジさん……』
『ユキミちゃん……』
有機ELの向こう側で男女が抱き合っている。非常に不愉快だ。今頃、萌々香と隆介もこうやって抱き合って身体を温めあっているのだろうか。こんな駅のプラットフォームとかで。
『あんなヤツ放っておいて、僕と逃げちゃおうよ』
『で、でも。それでも私の彼氏なの。ケンジさんのことは好きだけど』
『馬鹿だな、君はッ! そんな奴忘れろよ!』
はい、不愉快この上なしッ!!
速攻ネットに切り替え!!
どんな理由があっても浮気は許されない。
いや、さらし首かッ!? そんな程度では生ぬるい!
マイリストの中のお気に入りの動画を選択して決定、と。
『こんばんわぁ〜〜〜こんにちは〜〜〜おはよんっ♪ キャラメル担当、ヴェロニカです!』
『はいは〜〜いっ! チョコレート担当のヴァーミリオン
『シ、シナモン担当……エンデューロでしゅ……』
来た。きたきたぁ〜〜〜〜〜〜!!!
『わたしたち、神出鬼没のパリピVtuber!! その名もぉ〜〜〜』
——パーティーライオットぉぉぉぉ!!
うぉぉぉぉ!! カワイイ!! 可愛すぎるぜ!! みんな!!
俺の推しは、断然キャラメルヴェロニカちゃんなんだ。
萌々香はシナモンエンデューロだったよな!
あれ。
思い出したくないのに思い出しちゃうな。なんでなんだろう。この回も一緒に見ていたな。みんなでゲーム実況するんだけど、すげえ楽しいんだよな。
島に降りてサバイバルしながら最後の一チームになるまで戦うんだけど、三人のチームプレイが微妙に
こんな日がいつまでも続けばいいと思った。
『ば、ばかぁぁぁ!! こっちに向かって爆弾投げんなよ、ヴェロニー!』
『ご、ごめんちゃいッ! ああ、またぁぁぁ』
『ふ、ふたりとも、死——あ。あたしも』
ピンポーンって。インターホンが鳴った。
仕方なく、テレビの電源を一旦落とす。来訪者にVtuber好きは隠したいんだな。
典型的なオタクみたいじゃん俺。的なキャラ作りをしていなくて、なんか今さら言い出しにくい、みたいなのあるでしょ?
うちはオートロックも無ければセキュリティなんて考えられて作られていない。それが一周回って不動産屋が告げた言葉に萌々香と大ウケしたんだ。
「この鍵は古すぎてピッキングできないよ」って。
ドアノブと鍵が一緒になっているやつ。
萌々香が来たのかもしれない。実は、隆介と歩いていたのは誤解でドッキリを仕掛けたのでしたぁ、なんて言って。見られることを前提にくっついていたとか。
それで揺さぶった挙げ句、てってれーって効果音をスマホから鳴らして二人で現れるつもりだったのに。ごめんね。傷つけるつもりはなかったんだよ。ねえ、ほんとだよ?
淡い期待を抱いて、覗き穴に瞳を近づけた。
すげえ美少女が突っ立っている。もう、なんていうか
ああ、部屋間違っちゃった系か、もしくは悪質な訪問販売だな。いや、もしくは俺の幻覚かもしれない。
ということでもう一度
ポニーテールの女の子が立っていた。紺のジャケットに白いブラウス。蝶ネクタイをして、紫の花の髪飾りが印象的だ。
長いまつ毛の下の大きな瞳がぎろりとこちらを見ている。
「人違いですよ」と扉越しに淡々と告げる。すると、再びインターホンを鳴らす。
しつこい。しつこすぎる。ああ、連打はやめてぇ。防音効果はゼロ、いやマイナスの値と考えて貰えれば幸いっす。
くしゃみしただけで「うるせえ」って隣の部屋から返ってくるんだからさ。
仕方なくドアを開く。
「ちょっと! この部屋は俺一人しか住んでいないですよ。誰に御用ですか?」
閉めようとすると、「待って」と扉の
女の子を家に上げた瞬間、怖いお兄さんがぞっくり現れて現金を
「あなたとお話したくて来ました。入っても?」
「ああ、そういう手口ね。そうやって上目遣いなんてされて——」
——くそカワイイ。
いや、待て待て。萌々香とは別れたわけではない。まだ首の皮一枚で繋がっているじゃないか。とすると、これは浮気に当たらないか?
そうだとすれば、俺も萌々香と同類になってしまう。
「手口……ですか? ああ、あなたを型にハメようなんて思っていません。ただ、仲良しカップルを見て泣きながら帰るところを見ると、寝取られたのかなって想像を
だいぶ当たっている。いや、それはもう正解でよくないか。
「そうだよ……そのとおりだよ。それで俺に何の用?」
「申し遅れました。こういうものです」
「ああ、これはご丁寧に」
——ッ!?
Vtuberユニット『P・ライオット』姉と妹の真ん中キャラ。
『キャラメル・ヴェロニカ』
うそだ。これはやばい。完全に詐欺られている。搾り取られて骨の髄までしゃぶられるタイプの詐欺だ。だって、俺の知っているヴェロニーはポニーテールで紫の髪飾りをつけて……え? そういえば似ている。コスプレ!?
確かに大人気Vtuberユニットの一人に似ているけど、こんなハロウィンでもイベントでもない平日の真冬の夜にコスプレして人の家に訪ねてくるなんて……。しかも、俺がヴェロニーのファンだと知ってのハイパー
てめえ、うちの若い子に手を出してくれちゃって落とし前どう付けんだコラァッ!!
と来れば、金のない俺は消費者金融地獄。
人生詰んだかもしれない。
いや、平凡な大学を出て就職に失敗した挙げ句、こうしてフリーターをしていて彼女を寝取られた時点で人生は詰んでいるかもしれない。
女の子の肩越しに後ろを見る。つま先立ちして背伸びしてキョロキョロと見回しても、サングラスを掛けたタトゥーまみれのお兄さんはいない。
ははん。さては、見えないところに隠れているんだろうな。
「どこだ!? 半グレがどこかにいるはずなんだけど」
「あのぉ。寒いので。中に入っちゃいま〜〜〜〜すっ♪」
俺の脇の下を抜けて「えいっ!」と勢いよくブーツを脱いだ。マナーもヘッタクレもない。行儀悪くブーツを狭い玄関に散乱させんなよ。
ギンガムチェックのスカートから伸びるニーハイを穿いた脚を伸ばして部屋の中に入っていく。ああ、ペットボトルを避けないと踏むぞ。
ゴミが散乱していてごめんねぇ。って、不法侵入じゃねえか。
なんで俺が気を使わなきゃいけないんだ。
「待てッ! 俺は金なんてもってないぞ。就活に失敗してバイト三つ掛け持ちしているくらいだし、家賃に水道光熱費と通信費を払ったら、食費は一万二千八百円くらいしか残らない
「……詐欺に来たんじゃなくて」
「やっぱり詐——え?」
「復讐しませんか?」
「……は?」
「わたし達、パーティーライオットが寝取られた男性の恨みを解決する新企画! その名も」
——キャンディ・ストラテジー!
い、意味が……。
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