第19話 本当の主人公


【アラン視点】



 僕は剣をジャスティスに振り下ろした。

 しかし、ジャスティスはどこからともなく剣を取り出して、それを受け止めた。


 ――キン!


「なに……!?」


 まさかこの僕の勇者の剣を受け止めるなんて……!?

 現状、僕の剣こそが最強であるはずなのに!?

 ジャスティスはいったいどうやって僕の剣を受け止めたというのか。

 どうやってそんな剣を手に入れたんだ。





【ジャスティス視点】



 俺はラフィアの剣で、敵の剣を受け止める。

 なかなか強い武器をもっているようだが、ラフィアの前では敵ではない。

 なぜならこの剣こそが、真の勇者の力を持ってるからだ……!


「うおおおおお!!!!」


 ――キン!


 俺は思い切り、剣を打ち付ける。

 それによって、相手の剣は簡単に宙を舞う。


「そんな……! 僕の勇者の剣が……!」


 勇者の剣……?

 今このドラゴン殺しの悪党は、勇者の剣と言ったか?

 俺は自分の耳を疑った。

 勇者の剣といえば、それは俺の剣ということになる。

 だって、俺がその勇者なのだから。

 ということはこいつは……まさか……!


 俺は悪党に駆け寄り、そいつのマントを剥いだ。

 相手は剣を落として戦闘不可能だから、抵抗することなく、簡単にマントをとることができた。


「っく…………」

「お、お前は……アラン……!?」


 まさか、ドラゴンキラーはアランだったとは……。

 しかもこいつ……俺から奪った剣を使っていたのか?

 いったいなんのつもりだというのだ……。

 俺から剣を奪っておいて、さらにドラゴン殺しなどという罪を重ねるなんて。

 てっきりすでに衛兵にでも捕まったかと思っていたけど……。

 怖い、怖すぎる……。

 完全に犯罪者の目をしているじゃないか。

 俺はこんな男をパーティーに入れていたなんて。

 今となっては信じられないことだが……。


「アラン……残念だ……。お前はそこまでの悪党だったのか……」


 俺は失望して、アランの首に剣を突き立てる。

 もちろんここで殺したりなどはしないけど、逃げられないようにだ。

 あとはギルドなり衛兵に引き渡せば、こいつの罪は裁かれる。


「な、なにを言ってる! ジャスティス! 悪党はお前のほうじゃないか!」


 などと、アランはわけのわからないことを言い出した。

 俺が悪党だって……?

 いったいなにを言っているんだろうか。

 俺は主人公だっていうのに……。


「だって、君は僕をだまして僕を犯罪者に仕立てあげた! そして、僕を認めずに……! 僕には本当はすごい覚醒スキルがあったっていうのに……! もっと僕の可能性を信じてくれてもよかったじゃないか! 僕たちは幼馴染だろ!?」


 なんて、アランは声を荒げて叫んだ。

 まるで駄々をこねる子供のようだ。

 正直、ドン引きです。

 いるんだよなぁ……こういう、自分のことを棚に上げて、なにもかもを人のせいにするやつ。

 前世の日本でも、こういう馬鹿な奴がたくさんいたっけ……。


「なにを言ってるんだ? 俺はお前を正当な理由で追放しただけだが? お前が犯罪を犯したのを俺のせいにするな」

「っく…………」


 それに、幼馴染だといわれても、俺にそんな思い入れはないしな……。

 もともとのジャスティスだって、こいつを追放する気だったわけだし……。

 ジャスティスはこいつの本性に気づいていたんだろうな。

 というか、今までよくこんなおかしな奴と一緒にいれたよな……。

 と、かつてのジャスティスに同情さえ覚える。

 まあ、そこはそれこそ、幼馴染だからということで、長い目でみてきたんだろうが……。

 それだけの期間あっても、アランはろくに役に立たなかったわけだろうし、追放はやっぱり仕方がない気もするなぁ。

 追放されたあとのことなんか知らないし、あとから覚醒したとか言われても、こっちの知ったことではない。

 というのが俺の正直な感想だ。


「まあ、そういうことだアラン。残念だけど、おとなしく罪を償うんだ。俺は幼馴染だからといって、犯罪者をみすみす野に放つようなことはしないよ。衛兵が到着するまで、お前をこのまま拘束する……」

「っく…………! くっそおおおお! こんなはずじゃなかったのに……! 僕はジャスティスにざまぁみろと一言いってやりたかっただけなのにいいいい!!!!」


 アランは泣きわめいて、地団駄を踏んだ。

 えぇ……。

 いくらなんでも、精神性が幼すぎるな……こいつ。

 まあ、こんなやつには、いくら覚醒なんかしても、到底物語の主人公は務まらないだろうな。

 やっぱり、主人公っていうのは、主人公たるゆえんがあって、主人公なのである。

 俺たちがそうこうしているうちに、マチルダとユリシィも駆けつけてきた。


「……!? アラン……!? やっぱりあんたが犯人だったのね……!? いつかそういうことをやるとは思っていたけど……本当に……失望したわ……」

「さすがはジャスティスです。愚かなアランを粛正して、すばらしい行いですね。聖女である私から、祝福を授けます」


 やっぱり、会話を聞いていた二人からしても、異常なのはアランのほうみたいだな。

 しかも、こいつらの言いぶりからしても、アランはもともと二人からも嫌われていたようだな。

 まあ、当然ともいえる。

 こんなうじうじしたやつは、女の子からは嫌われるだろう。

 俺も前世では、ちょっとそういうところがあったっけな……。

 すっかりこのジャスティスの体に慣れてしまったから、もう遠い昔のことのように思える。

 ジャスティスとなってからは、自分が主人公であるということで、自信をもってふるまえるようになった気がする。

 やっぱり、人間自信というのが大事だ。

 自分が主人公であるという安心感はとてつもない。

 なにせ、やったことすべてがうまくいくんだから。

 世界から祝福されていると感じる。

 神から全肯定されているような……。

 もっと、前世でもこうやって自信をもって生きていられれば……あんな人生を送らずに済んだのかもしれないな……。


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