第0-2話 文芸部にて(2022/9/18更新)

 英語の授業の後、私は教室近くの女子トイレに来ていた。個室の扉は5つのうち3つが閉まっており、その前では2人の女子のグループが談笑している。そんな中で私は鏡の前で髪を整えているところだ。私の髪は菜の花色をした肩までかかるくらいでストレートの短髪だ。よく見るとさっき英語の先生に殴られたところの髪の毛が少しへこんでいる。あの時は相当痛かったし、相当強い力で殴られたんだな、と手でその部分をワシワシして整える。

 一方、左右の側頭部それぞれに付いている髪飾りはそんな衝撃でも崩れておらずそのままだ。髪の毛と同じ菜の花色をした細めのリボンが蝶結びになっており、その上に鈴の形をした飾りが付いている。(とはいえただの飾りなので振ったところで鳴るわけではない)


 頭頂部の髪をワシワシして膨らませた後、軽くぴょんぴょんと跳んで整える。それと同時に、深い青色をしたパーカーの帽子部分とかぼちゃパンツのような黒いショートパンツが揺れる。この高校は私服で通える(けど一応制服もあり、一部の人はそれで通っている)学校なのでこのようにおしゃれができるのが嬉しいところだ。


 鏡から目を離すと私の赤い目が鏡の中でキラッと光った。


「よし……と」

 とりあえず髪を整え髪飾りがずれていないことを確認すると私はトイレから出た。次は確か古文の授業だったっけ、と私はスマホで時間割を確認し教室に戻った。

 古文は交友関係上よく読むけど別に好きってわけじゃないんだよね~。読みづらいし。

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 放課後になり、私は部活動のため実習棟の3階にある物理実験室に向かった。とは言っても私の部活は物理部とか科学部とかそういうのではなく文芸部である。この部活はこの学校の文化部の中でも吹奏楽部に次いで人気があり、ここから著名な小説家も出てきたらしい。(というか物理実験室の後ろにはその人の小説が置いてある)


「こんちわー!」

「こんにちわー!」

「こんにちは、夕華さん。今日は何をお読みになるのですの?」

 私が勢いよく部屋の扉を開けて挨拶をすると、部員たちが読んでいる本から顔を上げて挨拶を返してきた。その中でも、奥から丁寧に返してきた赤毛の女性(同学年なので年齢は私と変わらないはずだが、言葉遣いと佇まいが大人のレディみたいなのでいつも「女の子」ではなく「女性」と呼びたくなってしまう)は、私の親友である赤城あかぎ紗夜さやだ。というか、私はこの女性を追っかけてこの学校に入ったまである。(……のだが私は文系なのに彼女は理系なので、クラスが文理で分かれる2年からは確実に別のクラスになってしまう。)


「そうだなぁ、それじゃこの本を読もうかな。ってかもう入ったのかこれ、これ2週間前に発売されたやつだぞ」

 私が手に取ったのは、【失意のサッカー少年、eスポーツで無双する(3)】だ。この小説は、足に大きな怪我をしてサッカーを続けられなくなった男の子が、eスポーツと言う新たなフィールドでサッカー経験を活かして活躍する、という内容である。ちなみにタイトルは書籍化した際に付けられたもので、実際はそんなに無双しない、って作者が嘆いてたっけ。作者がキレてタイトルが変わるのかも近いかもしれない。

 文芸部とはいえ私たちは新入生歓迎用の小説や詩とかを書いたばっかりのため、これからしばらくはいろんな小説を読んでインプットをしていく期間、と言う名の休憩期間になっている。各自図書室や図書館から本を借りたり、ここにある本を借りたり自分で買った本を持ってきたりしてここで読むのだ。


 本を手に取った後、私は紗夜さんの隣に座った。彼女は図書館から借りてきたらしき【人間失格】という大きくて古そうな本を持っている。私はラノベをよく読んでるけど、こういう昔の文豪が書いた本も読んだほうが良いのかなぁと思う。

「夕華さん、私今日はこんなものを持ってきましたの。あなたもお飲みになります?」

 紗夜さんはそう言って私になにかの缶を差し出してきた。よく見るとそれは【AI】というエナジードリンクの新しいやつである【AI/STARLiGHT】である。缶には大きく星の形が描かれており、缶の配色は全体的に黄色……というか私の髪色と似たような菜の花色である。

「おっ、これ【AI】の新しいやつじゃん!私飲んでみたかったんだよねー、でも飲むタイミングがなくて」

「やっぱり文章を読み書きする時はこれですわね」


 紗夜さんから缶を受け取りプルタブをカシュっと開けてまずは一口飲んでみる。すると液体が舌に触れた瞬間に鮮烈なレモンの味が口の中に広がり、その後に若いオレンジの風味が鼻から抜けていく。つまるところ掛け値なしに美味しい。よくぞこんなものを作ってくれたものだ。まったくこれを作ってくれた人には頭が上がらないね。

「美味しっ!これまでのとは違ってさっぱり系の味で良いね」

「そうですわね。でも本にこぼさないように気をつけて飲むのですよ」

「分かってるよー」

 そんな事を言いながらも私は飲み物を再び飲んだ。


 午後4時くらいになり、私は鞄からスマホを取り出してメモ帳アプリを開く。そこには私がこれまで書き溜めたネタが雑多に書かれており、次に書く(大体5月に入ってからの予定だが)小説のために準備されている。

「(えっと、eスポーツものもありだと思うけど、それには実際にやってみた方がオリジナルのゲームのシステムも作りやすいだろうなぁ、でもその前に弟に何がおすすめか聞いてみようかな)」

 そう考えながら私はメモ帳に「eスポーツもの、別に大会出るわけでもなく友達と一緒にゆるく楽しむ日常eスポーツものとか良いかもなぁ」と書き留めた。


 その他にも読んでいる小説から得た着想をメモ帳に書き留め、これぞと思うものが浮かばなくなったところでスマホをしまい再び本に向き合った。その時ふと前の方を見ると、机の向かいにいる男子がちょいちょいと手招きしてきた。確か新聞部にいる3年の宮城みやぎかなでさんだったか。

「紗夜さん、ちょっと呼ばれたので行くね」

「分かりました」

 そう言葉を交わしてから私はその男子のところに歩きだしていった。


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EPISODE1 "いじめを破壊する銀の弾丸" に続く


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次の話は資料集なので、一旦概要ページに戻ってからEPISODE1をご覧ください。

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