第30話 番外のタッタリア
市木家での1対1の会話、2対1の会話、それも終わりが近づいていることを知っていて、誰も口にしない。
そんなある日、マルセリーノは美咲に頼んで、大きな金色の目覚まし時計をペットショップに運んでもらっている。今夜はペットショップで一夜を過ごすつもりである。
「然しやぁ、タッタリア、ムーって何者なん?」
「そうですねぇ、まぁ、統括教授、もう一杯いかがですか?」
そう言いながらタッタリアは、小さな器にシングルモルトを注ぐ。
「で、この鯖の缶詰、美味いな。妙な味付けが無うて水煮ゆうのがええね」
最近の地球上のぺペンギン二匹は生魚でなくても食することに慣れてきつつある。
「はい、リンさんが買ってきてくれました」
「あいつ、ええとこあるやん」
「はい、まだまだありますよ」
「まだまだって、幾つくらいあるの?」
「はい、ダンボールで買ってきてくださいましたので、数量は分かりませんが」
「ダンボールで一箱担いで来よったんか? あいつ力が有り余ってるんはええねんけど、どんだけ食わすつもりやねん」
「別に今夜中に食べなくても良いと思いますが?」
「そらそやけど・・・。あいつ、何処に行ってんの?」
「知らなかったのですか? 今夜は美咲さんとお泊まりで温泉旅館に行ってますよ」
「おい! 温泉旅館って、まさか混浴とかちゃうやろな? そんなんしたら、また男どもが寄ってきて温泉の湯、溢れかえるまで入って来よるで」
「それは大丈夫です。昔、美咲さんがアルバイトをしていた洋菓子店の店長が経営している旅館なので、その辺は融通を効かせてくださっているそうですよ」
「ほう、あん時のケーキ職人、今度は旅籠の経営者か」
「はい、実家だそうです。それに店長さんの奥様は名物女将になってるそうですよ。何んでも、女性客さん達からの人気が凄くて、女将さんに人生の相談に来る人も少なく無いとか」
「そうかぁ。まぁ会うたこと無いし。どうでもええけど、リンが行くとこ必ず男どもの大騒ぎやし、旅籠に迷惑かかれへんかったらええだけのことやしな。てか? 美咲ちゃんとリン? そんなことになってるの?」
「はい」
「はい、や無うて! お前、まさか? あの記憶無くす薬? 使おうと思てへんやろな!」
「はい」
「はい? や無うて!」
「私は今回の件に関わってはいないのですよ。全てはリンさんに任せております」
「あかん、あいつの考えてること、ワイ、全然わからへんもん」
「リンさんなら、全てが上手く行くように解決してくださいますよ。安心してお任せしましょう」
「心配ない? うーん、知的生物ってやぁ、相手の考えてることが大体分かってたら、悪い事でも想像して覚悟ができるもんやけど、全く想像できひんとなると恐怖が積もっていくもんやで」
「彼女なら心配いりませんよ、ささ、鯖缶でも食べて、飲みましょう」
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