第15話 一夜



 その日の夜も清田は残業をして帰って来た。玄関に立つと家の中から薄明かりが漏れている。あれ、と思いながら清田は鍵のかかっていない玄関を開けると中へ入る。部屋の灯りの下で、美咲が僅かに微笑む。

「ただいま」

と静かに清田は笑わずに言うと。

「これ」

と言って美咲が包みを渡す。

「これは?」

清田が不審げに小さな声で言うと

「シラスとシングルモルト」

「えっ」

清田は肝心のシラスを忘れていた。また、ドアホ、と言われてしまうところであった。


「待ってて、あなたの分の食事も温め直すから」

そう言って美咲はガスに火を入れる。


 家族みんなが好きな美咲特性煮込みハンバーグである。


 その姿を見ながら清田は美咲に声をかける。

「美咲ちゃんは?」

「いつものようにお先にいただいたの。子供達も皆んなバラバラで食べ終わったよ」

「うん、でも、一緒に飲まないの?」

「いいの、あたし、お昼の間にマルちゃんといっぱいお話しできたから。今夜は男同士で飲んで」


 久しぶりに聞く美咲の優しい言葉に無感動に頷き、清田は風呂に入る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る