第7話 教授室にて
ジュリアーノの教授室に入ると、
「改めて、これ、受け取ってくれへんやろか」
マルセリーノがそう言うと、
「もう過ぎた事なのに。でも折詰は有り難くいただきましょう」
そう言うとジュリアーノは教授室に備え付けてある小型の冷蔵庫に折詰を入れた。
「いやー、統括教授。過ぎたことではありますが、改めてお礼を言わせてください。有難うございました」
「ええ?」
「あの装置の試運転ですよ。統括教授の理論通りに装置を組み上げましたが試運転はされていませんでした。勿論。統括教授の理論は完璧で疑いもない理論だと私は信じていました。その理論に基づいて正確に作られたあの装置もまた完璧であると信じていました」
「・・・・・・・・・・。」
「でも試運転はされていなく、統括教授が、地球の、ある願いを叶えるために試運転してくださいました。統括教授には感謝しているのですよ」
「あんな形でもか?」
「形なんて研究者にとっては問題ではありません。正確な理論と、正しい方法で作られた結果の証明が正しい研究です」
「そうかぁ、ありがたい言葉やな。ワイのこと恨んでへんねや」
「恨むどころか感謝しております」
ジュリアーノは小さな炊事場へ行くとコーヒーを淹れ、形ばかりの応接セットのテーブルに二つのカップを置いた。マルセリーノは数年前の事を思い出していた。
一人の女性の命を救えなかった事。但し24時間という条件付きで、その女性の身体を複製した事。そして、その肉体へ全宇宙エネルギー選択的収集装置を使って、その肉体に過去の個性を持ったままの生命エネルギーを注ぎ込み、完全なる人体複製をした事。
「で、その後、あの装置はどうなったん?」
「地球から回収された後の話ですね?」
「うん、それな」
「あの装置は、厳重に管理されていますよ」
「ま、あんな事あったし、しゃーない成り行きやな」
「統括教授は何か勘違いをされていると思いますよ」
「って、黙って運び出されたこととは関係ないの?」
「全く関係ないとまでは言えませんが、どうも時間限定であっても人体複製に成功したと言うことが問題になったようです。統括教授は聞いておられなかったのですか?」
「せやねん。お前はこれ以上関わるな! って言われてな」
「ははははー。それは面白い。統括教授が関わると規則が有って無いものになりかねませんからね。これは可笑しい。はははははー」
「そないに笑わんでもええやろ」
そうは言ったもののマルセリーノも苦笑を隠せない。
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