第24話新しい味
伯爵ご本人が登場した横で、なぜかエリシャさんが頭を押さえている。
「はあ、せっかくお父様には秘密にして驚かせてさしあげようと思っていましたのに」
ああなるほど。確かに甘いものが苦手な伯爵に甘くないかき氷を食べさせたらびっくりするよね。その計画がご破産になっちゃったからがっかりしたというわけですか。
「そう言うなエリシャ。その気持ちだけで充分嬉しいぞ。それでタケシと言ったか? 甘くないかき氷、本当に用意できるのか?」
「はい。なんなら全く甘くない物と、甘さ控えめの物の2種類をご用意しましょうか。どちらも、少なくともこのあたりでは珍しい物で、御来賓の皆様にも喜んでいただけると思いますよ」
「それは素晴らしい。貴族の中には、甘い物など女子供の食べ物だとバカにする者も多いのだ。くだらぬことだとは思うが、接待する身としては無視することもできん。タケシとやら、それと、そちらの2人も当日は頼んだぞ」
「はい」
「お任せください」
「ひゃい!」
ひとり相変わらず緊張してるけど、伯爵は満足したのかそのまま部屋を出て行った。たぶん、仕事に戻ったんだろうな。
あ、ふと思ったんだけど、もしかしてエリシャさんの甘くないかき氷の依頼って、伯爵の好みの問題だけじゃなくて、その政治的な影響も考えてのことだったりとかするのかな。
だとしたら、たいしたものだと思う。
「ええと、お父様にはバレてしまいましたが、よろしくお願いしますね」
「かしこまりました。当日は、店で手伝ってくれている子供たちを連れてきても大丈夫ですか?」
「申し訳ありませんが、そちらのポーシャさんはともかく、他の子供たちにはご遠慮願えますかな。伯爵家の令嬢のパーティーに孤児が多数いるというのは外聞があまり良くないもので」
オレの失礼に答えてくれたのは、エリシャさんではなくロロンさんだった。
かなり多くのかき氷が出ることになるだろうから人手は欲しかったんだけど、あ、ここの料理人さんを借りるのはどうだろう?
「料理人たちは皆パーティーの料理を作らなければならないので手が空いている者はいないでしょうな」
だめかー。となると仕方ない。電動のかき氷機プラスバッテリーでも買っちゃうか。
「あの、難しいでしょうか?」
オレがかき氷機を買うかどうするか悩んでいたのが、エリシャさんには人手が足りなくてどうするか悩んでいたように見えたらしい。心配そうな目で見てきたけど、そんな目で見られて萌えない(誤字ではない)男はいないんです。
(まったく、バカなんだから)
サエちゃんがボソっとなにか言った気がするけど気にしません。
「問題ありません。オレたちに任せてください。それではさっそく準備にかかりますので、これで失礼しますね」
伯爵家をあとにしたオレたちは、ポーシャは院長さんに状況を説明に行き、オレとサエちゃんは買い出しとサプライズの準備のために日本へ戻ったのでした。
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