第18話まさかのサエちゃん
ピンポーン
「はーい、どちら様ですか?」
「あ、あのね、サエだけどちょっといいかな?」
飛んでマイルームに入るい夏のサエちゃんとはこのことなんだろうか。悩んでいると、ちょうどいいタイミングなのかどうなのかは微妙だけど、サエちゃんがやってきた。
「どうしたの? もしかして、またご飯でも作ってきてくれたの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……あのね、大事な話があるからあがっていいかな?」
なんとなく恥ずかしそうにチラチラオレを見てくるサエちゃんの表情はなにかいつもと違う。
「あ、カブト虫。それに……これ、アサリ? ……あ、ああ! なるほどー」
部屋にあがってもらったサエちゃんは、当然のごとくテーブルの上のカブト虫とアサリさんに気がついた。
「いやいやいや、やっぱりなるほどじゃないわ。ちょっとたーくん、そこに座りなさい」
「た、たーくん?」
「いいから、お座り!」
「は、はい!」
こういう時の女の人の命令って、男には逆らえないよね。それが例え年下であったとしても。
「あの、それで、なんでしょうか?」
いかんな。どうも下手にでてしまう。
異世界のこと、もしかしなくてもバレてるのかな?
「あのね、たーくんがどんな趣味を持っていても別にいいのよ」
「はい?」
サエちゃんの言ってることの意味が分からず思わず首をかしげる。
「でもね、それはあくまでもフィクションにしておくのよ。リアルではノータッチ。わたしと約束して」
「はい?」
「ごまかさなくていいのよ。あ◯りちゃんとかド◯ミちゃんとか、小さな女の子向けアニメが好きなのはわたしは理解してあげられるから。だから、ね? 約束して」
「あー……」
ようやく理解できた。
つまりサエちゃんは、オレがさっき異世界に出かけたりしてた時のかけ声や、実験でブツブツ言ってたのを聞いてたということだろう。
この部屋、壁が薄いから隣の部屋の声なんか聞きたくなくても聞こえてきちゃうんだよなー。うかつだった。
「いやー、別にそういうのが趣味ってわけじゃ」
「だからいいのよ。わたしも好きよ、ド◯ミちゃん。聖地巡りをする映画だって観たんだから」
ダメだ、完全に誤解されてるな。
もう仕方ないか。かくなる上は……
「え、異世界? マジックバッグ? 本当に?」
全て話すことにした。
サエちゃんはこういうのが好きなのは知ってるし、万が一信じてくれなくても人に言いふらしたりするような子じゃないくらいには信用してる。
「じゃあもしかして、かき氷の屋台も?」
「うん。今日の昼にやってきた。凄い大盛況だった」
「……い」
「え?」
「ずーるーいー! わたしに黙ってそんな面白そうなことしてるなんて! わたし、あなたのなんなのさ!」
「隣室に住む元職場の仲間?」
「ちーがーうーでーしょー!」
おっとサエちゃん、そのネタはやめておこうか。
「行く。わたしも、異世界行く」
「いや、指輪ひとつしかないから。配達バッグの安全性もまだ不安だし」
「でも、さっきまで実験してたんだよね? アサリさんもカブト虫も大丈夫だったんだよね」
「それはそうだけど。哺乳類はまだ試してないし――」
「とりゃー!!」
「ええー!?」
いきなり目の前で配達バッグに水泳の飛び込みのごとく飛び込んで、スッと消えたさえちゃん。
やること危なすぎだろ。少し間違えたら頭ゴンする……ってそうじゃないだろ!
サエちゃん、無事でいてくれ!
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