第36話 幹部狩り


 王都にいる『スネイル』は壊滅。

 幹部のボエルッタから、『スネイル』本体の情報も得られた。


 それによると、『スネイル』のボスは『マタド=ナリ』にいる。

 大陸北部の『ハジマッタ王国』にある街だ。


 というわけで――


「じゃ、行っちゃおうか」


 イゼルダが言うと、反応は2つに別れた。

 顔を強張らせるのと、ほころばせるの。

 警邏隊の偉そうな人以外は、全員、後者だった。


 5分後、俺たちは『マタド=ナリ』にいた。


 ●


 転移魔法だと、移動時間がかからないから、距離が分からない。もしかしたら、時差があったのかもしれない。王都はまだ夜だったのに、『マタド=ナリ』はもう朝だった。


 イゼルダが、通りかかった宿の看板を指さして言った。


「お昼に、あそこに集合ね」


 そこから先は、別れて自由行動だ。イゼルダと俺、ウィルバーとミルカ、アドニスの3組。別れて数ブロックも歩く頃には、街のあちこちの方角から火の手が上がり始めていた。ミルカの『黒い代行者ブラック・サブスティチュート』だ。彼女は、スネイル構成員の殲滅を任されている。


「あそこの家ですね。グリドモアースが住んでます」


 イゼルダと俺は、幹部の担当だ。

 情報をもとに、一軒一軒、棲家を訪ねてぶった切っていく。

 最初の一軒は『キツネ目のグリドモアース』。

 凄腕の『毒使い』だ。


「じゃ、ここは私がやっちゃうね? 一軒ごとに、交代でいきましょう」


 右手に剣、左手に硬貨の詰まった袋を持って、イゼルダがドアの前に立つ。

 ごとん。

 ドアの向こうで何か重い物が落ちた音がし、俺達は家の中へと入った。

 ずかずか奥に進み、着いたのは寝室。


「おうら。起きろ~」


 ベッドで寝てる男に、俺は持ってた黒い物を叩きつける。

 玄関で拾った、錠前の残骸だ。

 イゼルダが『前払いでOKアドバンス・ペイメント』で叩き切ったものである。


「い、いってえなあ。ユウキ? カレン? 誰だよ……」


 頭を押さえ、シーツの中から起き上がる青年は、そんな仕草すらもさまになる、しゅっとしたイケメンだった。アドニスと並んだら、さぞ絵になりそうだ。こういうイケメンに対して、そろそろ俺も『もげろ』以外のボキャブラリーを手に入れるべきかもしれない。


 俺はしゃがんだ。

 頭の上を、幻の剣閃が通り過ぎていく。


「さすがね~。クサリちゃん、思った通りやりやすいわ」


 携えた剣を、ぴくりとも動かさぬまま、イゼルダが言った。


 イゼルダは、その能力で、剣を振らずに敵を斬る。しかし『実際に剣を振って斬る際と同じ様に、剣の通るルートを空けておいた方がやりやすいのでは?』という俺の推測は、正しかったみたいだ。


 振り向くと、部屋の隅で女がまっぷたつになっていた。吊り上がった細い目に、肘までを覆う手袋。ボエルッタの情報によると、あの手袋の下がどうなってるかは、誰にも見せたことがないらしい。


「……お、お、おおおおぅ?」


 青年が、目を丸くしていた。いつもならこの時間、彼はまだ熟睡している。ちょっとやそっとの物音では目を覚まさないくらい深く――グリドモアースの薬によって。


 これもボエルッタを尋問して得た情報だが、グリドモアースは、毎晩、この青年の寝顔を眺めているのだという。あの部屋の隅から一晩中、毎晩毎晩。部屋に転がる人体の残骸から、青年がその答えにたどり着くことは出来るだろうか? 出来ない方が幸せだとは思うが。


 投げキッスして寝室を去り。

 家を出るなり、イゼルダが言った。


「ああいうをさ。ぶん殴りながらファックするのって最高なのよね」


 応えず、次の家へと向かった。

 二件目は『稲妻のベルクト』。

 雷撃系の魔法の使い手だ。


「今度は、私の番ですよね」


『両断』イメージで扉を真っ二つにし、家に入った。情報通り、家の中は床が水浸しになってた。そしてこれも情報通り、部屋の真ん中に置いた椅子に、体育座りしてる男がいる。


 これが『稲妻のベルクト』だ。


 猜疑心の塊である彼は、寝首をかかれるのを恐れ、夜間のほとんどを、こうして襲撃者を待つことに費やしているのだという。当然、睡眠不足が心配されるわけだが、その分は昼寝で補っているとのことだ。そして、床が水浸しになってるのは――ベルクトが言った。


「待ってて……良かった」


 ベルクトの指先から発した雷撃が床に――床を濡らした水に迸る。水を伝って奔った雷撃は、俺とイゼルダを――


「そーいそいそいそいそいそいそい」


――襲う直前、床近くで回した俺の木剣に絡め取られ、


「そいそい、そいやっ!」


最後は黄金色のボールとなって、ベルクトの元へと投げ返された。


「お……俺の、手が」


 それを両手で受けるベルクトだったが――手首から先を失うのに、一秒かからなかった。そして、雷撃を自らの身体に与えて得た超スピードで俺に襲いかかったのだが。


「そいやっ!」


 いま放った黄金のボールのイメージを叩きつけられ、空中で炭になった。


「すご~い。いまのどうやったの? クサリちゃん」


 俺は答えた。


「剣に、イメージを込めたんです。割り箸で綿あめを巻いて取るイメージで雷撃をすくい取って、それを球にして、ベルクトに叩きつけたんですよ」

「へ~。綿あめって何?」

「えーと、それはですねえ……」


 ベルクトの家を出ると、街はもう大火事になってた。

 しかし、イゼルダは気にした風でもない。


「だってここ、うちの国じゃないし」


 とのことだ。

 こんな感じで、俺とイゼルダはさくさく幹部を斃していったのだった。


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