第5話 もうついでに言っちゃえ
「恋人同士ってさ。最終的に結婚しない限り何処かで絶対に別れるよな?」
駒沢君の真剣な表情に、私はただ頷くしか無かった。
「でも。例え結婚しても離婚する夫婦は幾らでもいる。それってさ。桜田は何でだと思う?」
「え? ええと。そうね。性格の不一致とか?」
「そうだな。それも大きな理由の一つだと思う。でも。俺はもっと根本的な原因があると思うんだ」
「根本的な原因?」
「ああ。それは相手を良く知りもしないのに付き合ったり結婚したりするから。俺はそう思うんだ」
「······相手を良く知りもしないのに?」
「うん。例えばだけどさ。今俺と桜田は互いのいい面を言い合って何だかいい雰囲気になってるだろ?正直に言うとさ。この雰囲気に飲まれて俺思ったんだ。このまま桜田と付き合ったり出来たらいいなって」
······え? ほ、本当に? そんな事を思ってくれたの? 駒沢君。
「でもさ。それって危険だと思うんだ。相手の良い所だけを見て。悪い所からは目を背けて見ようとしない。それって、後々仲違いの原因になると思うんだ」
こ、駒沢君。君は本当に高校生か!? って思うくらい駒沢君の考え方は若者離れしていた。
「分かってるよ。自覚もしている。俺のこの考えは面倒臭くて同年代からは煙たがれる事くらいはさ。でも。俺はこう言う考え方しか出来ないんだ」
駒沢君は何だか落ち込むようにため息を漏らす。駒沢君が口にした「いい雰囲気」の余韻を引きずる私は、彼のこの姿勢が真摯に感じられた。
······ならば。駒沢君の誠意に答えるのが私に出来る唯一の事だ。
「分かったわ駒沢君! 上辺だけの会話はやめにしましょう! 嫌な話を。短所の話を。人には普通言わないレベルの打ち明け話をしましょう!」
私の突然の提案に、駒沢君は緊張した様な表情になる。屋上の隅で交わされる私達の会話は、思いも寄らない方向へ傾いて行く。
「わ、私ね。もう全てが面倒臭いってレベルの無精者なの。正直、仲良しの友達と会う約束をした当日も「うわあ。ちょっと出掛けるの面倒だなあ」みたいな具合でため息が出るの。もし私に彼氏が出来たとしても、同じため息が出ると思う。ううん。絶対に出る自信があるわ。でもね。決して相手が嫌だからって訳じゃないよ。もうこれは性格なの。私の修正不可能の性根なの」
私のまくしたてる演説に、駒沢君は心無しか引き気味に見える。だが、ここで怯んではせっかくのこの「ぶっちゃけ話をしようぜ」的な空気がおかしくなる。
「あ、あとね。親からは「お前絶対に味覚がおかしいぞ」って言われるんだけど、チョコレートとマヨネーズを混ぜてキュウリにつけて食べるのが好きなの。あとあと、さっき駒沢君は私がぶりっ子しないって言ってくれたけど、本当の所はぶりっ子が面倒臭くてしないだけなの。多分、面倒臭くなかったらぶりっ子してると思う。あとあとあと、足の親指がぶっとくて全然女の子らしくないの!」
己の肺活量を限界まで使い果たした様に、私は言い終えると激しく息を切らす。表情が固まったままの駒沢君は、私の息が落ち着いた頃合いを見計らって喋りだした。
「······桜田。さっき桜田が俺が他人の悪口を言わないって言ってくれたけど、それって言葉に出さないだけなんだ。内心では結構人の悪口を言ってる。桜田の家で飼っている秋田犬の名前がファミリアって聞いた時、桜田の名字と繋げて「それってスペインのサグラダ・ファミリアじゃん!」って一人で突っ込んで一人でうけていたんだ。後、友達同士の集合時間に一番早く来るってのも理由があってさ。俺、酷い方向音痴だから時間に余裕を持って出掛けないと不安なんだ。あと。その。さっきさ。桜田のスタイルの事をいやらしい目で見ている訳じゃないって言ったけと、ほ、本当はメチャクチャ全開でいやらしい目で見てたんだ! ご、ごめん!!」
何故か最後の方の台詞だけ早口になった駒沢君は、腰を曲げて頭を下げ私に謝罪して来た。
え、ええと? 二番目に好きな男子にいやらしい目で見られていたのよね。私? これって嬉しい事なの? 相手を軽蔑すべき事なの?
わ、分かんない。もう自分のこの高ぶった感情が上手くコントロール出来ない。
「こ、駒沢君! よ、良く分かんないけど、健全な男子高校生ならそれって当たり前なんじゃないかな? そ、そっち系の話題が出たからついでに言っちゃうけど、わ、私ね。二つの乳首の形が少し、い、いや。結構違うの!!」
「ちょ、ちょっと待て桜田! 落ち着けよ! 今そんな事まで言う必要ないって!」
「だ、だってさ! もしかして私と駒沢君がつき合う事になって、ゆくゆくはアレしてコレして最終的にソレする時、いざそうなる時「うわあ。桜田の乳首って形が揃って無いなあ。これじゃあ萎えちゃうぜ」的な風に思われるなら、今知っといて欲しいもん! 今ジャッジして欲しいもん!! あ、み、見る? 何なら今見とく? 事前確認しておく?」
「しねーよ事前確認なんて!! 出来る筈無いだろう!! さ、桜田がそんな事を言うなら俺も言うけど、お、俺ってさ。アソコの毛が全然無いんだ!」
な、無い? アソコの毛が!? アソコって何処よ!? スペインのサグラダ・ファミリアか?
ち、違う。そんな遠い場所じゃない!! 今私の目の前に存在している!! 私は血走った両目で駒沢君の股間を凝視していた。
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