大晦日
いと
第1話
大晦日の夜8時。
我が家では毎年、家族全員こたつに集合して、テレビを見ながらカップそばを食べる。
我が家は、父・母・私の3人家族だ。
「この緑のたぬきにな、温泉卵を入れて食うのが美味いんだ。」
「は!?そのまま食べた方が美味いに決まってるじゃん!」
「もう、うるさいよ。歌が聞こえない。」
父が温泉卵を乗せて食べるのを見て、私がギャーギャー言う。
母はテレビが聞こえない、と静かに怒る。
これが、毎年の恒例行事だった。
私はずっと、そのまま食べる派を貫いている。
温泉卵が食わず嫌い、という理由もあるが。
現在、私は結婚し、実家を離れている。
新しい家で、3度目の大晦日の夜を迎えた。
「ごめん、今年はそば作る時間なかったから、緑のたぬき買ってきた。」
「いいよいいよ。俺、それ大好きだし!」
「良かった。お湯沸かすね!」
2つのカップにお湯を注ぐ。
ふわっと湯気が出て、寒い空気を温める。
テーブルにセットし、準備万端だ。
「さ、食べよ!」
「あ、そうだ。」
夫が、おもむろに席を立ち、冷蔵庫へ向かう。
…ビールでも飲むのかな?
「えぇと…あ、あったあった。買っといて良かった。」
「……!」
持ってきたのは…温泉卵。と、刻み海苔。
「知ってる?緑のたぬきに温泉卵のっけて、海苔かけて食うと美味いんだよ!」
「…お、お前もかぁっ!!!」
なんと、夫も温泉卵派だった。しかも、海苔がついてレベルアップしてる…。
「え、な、なんで怒るの?」
まさか、新しい家でもこの論争が巻き起ころうとは…。
「……ぷっ。あははははっ!なんでもない!食べよ!」
なんだかおかしくなって笑ってしまった。
汁を啜ると、
懐かしい気持ちになった。
「…ホントに美味いよ?騙されたと思って、ちょっと食べてみ?」
「…仕方ないなぁ。」
これを機に、試しに食べてみることにした。
とろりと卵と海苔が絡んだ麺を持ち上げて、
一気に啜る。
「………うんま。」
「だろ!?」
……お父さんに今度電話しよう。
今年の大晦日は、いつも以上に温まった。
大晦日 いと @shima-i
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます