第81話 疫病日記
職場の人が感染し、濃厚接触者として自宅待機を余儀なくされたと姉から連絡を受けた時。
四十代の姉は、ワクチンの供給が滞っている現在まだ未接種であると思い出した時。
PCR検査はすぐには受けられないと役所に言われたと知らされた時。
発熱したと聞いた時。
検査結果は陽性だったと聞いた時。
生命保険は箪笥の一番下の引き出しに入っているから、万一の時は息子のことを頼むと言われた時。
解熱剤のお陰で昼間は熱が下がるが、咳が酷くて夜眠れないと聞かされたとき。
同じく濃厚接触者認定され自宅待機していた同居の息子は、職域接種でワクチン接種済み・検査結果陰性だったが、喘息の持病がある。家庭内感染を避けるために入院させてもらえないかと保健所にお願いしているが、現在感染者が多過ぎて対応が難しいらしいと言われた時。
パルスオキシメーターと食料が役所から届いたと聞いた時。
ホテル療養で隔離してもらえることになったから、これでようやく息子にうつす心配はなくなった、ととても嬉しそうに報告してきた時。
ホテル「療養」といっても、一日一回看護師から電話がかかってくるだけで、医師の往診などはないと知らされた時。
誰が金メダルを取ったとか、首相が祝福の電話をかけたとか、そんなニュースばかりがテレビに溢れていたこと、それに出演していた人々はみんな笑顔だったことを、私はこの先もずっと、覚えているだろう。
震える指で、「甥っ子のことは任せろ。ていうか、陽性だったからって全員死ぬわけじゃないよ?笑」とスマホからメッセージを打ち返した時のことを。
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