第53話 王都へ!

 近くにいた伝令兵から馬を借りて、アレンが跨った。


「でもアレン、私すり抜けられるから……」


「分かってる。先に行ってくれ。後から追いつく」


「うん、ファンゲイルを見つけたら合図を送るね。こうやって」


 ホーリーレイを応用して、明るさを上げた太めの光線を空に放った。これなら遠くからでも見えるよね。

 アレンが了承したのを確認して、王都を目指して走りだした。少しの間別行動だ。



 街に入ると、兵士の避難誘導があったのか人の往来はほとんどなかった。全ての障害を無視して、最短距離で真っすぐ向かっていく。王都はこの街を抜けた先にある。


 それにしても、ファンゲイルはどうしていきなり王都に乗り込んだんだろう。王国を滅ぼすのが目的ではないのかな?

 いや、滅ぼすにしても先に王都を制圧する手段があればその方が早いのかもしれない。ドラゴンに乗って空から侵入するなんて、普通できないもんね。


「もしレイニーさんがいたら絶対撃ち落とされてるね!!」


 とりあえずレイニーさんの威を借りて威張っておく。

 私? 結界で侵入を防ぐくらいはできるよ。でも遠ければ遠いほど、そして結界が大きいほど精度が甘くなるから、既に侵入され距離のある現状では難しい。


 他に考えられる目的としては、王国の征服かな。私が結界を張っても王国に固執していたことから、王国を支配したいのかもしれない。

 そういえば砦でゴズメズと話している時、何か欲しいものがあるって言っていたような気がする。


 私は馬が走るよりも早く、街をくぐり抜けた。短い街道を行けばすぐに王都だ。

 当たり前だが、こちらの街道に魔物はいない。静かなものだ。


 既に降り立ったのか、空に骨ドラゴンの姿はない。あの巨体が本気で暴れればどれだけの被害が出るか。考えるだに恐ろしい。

 兵士よりも戦闘に長けているらしい騎士団が頑張ってくれていると信じたい。でもなぁ、騎士団って貴族お抱えの組織で、跡継ぎになれない次男以降の子がコネで配属されてたりするから、あまり良い印象がないんだよね。


「平和な王都の警備してるだけなのにさー」


 ダメだ、王都に戻ってくると自分の性格が悪くなる気がする。結構鬱憤が溜まっていたらしい。


 ここ数年戦争と無縁だったから軍備に力を入れていないのだ。今や王国の上層部は腐り切っていて、私腹を肥やすのに夢中である。


 やっぱ私が守らないと! そう意気込んで王都の門を突っ切った。

 飛び込んできた光景に、目を疑った。


「あれ? なんともない……?」


 処刑されて以来、久々に来た王都だけど、見える景色は記憶の中のものと相違なかった。

 骨ドラゴンに破壊された形跡もない。


「見間違いだったのかな?」


 上空から王都を見渡す。突然の襲撃にパニックになっている人たちが多くいるから、見間違いではない。でも、肝心の骨ドラゴンが見当たらない。

 王都は東側に位置する王宮から扇状に城下町が広がっているような形をしている。骨ドラゴンが暴れていれば、この位置から見えないはずがないのだ。


「まさか、直接王宮に……?」


 ふと口に出して、遅れて思考が追いついた。

 そっか、征服が目的なら徒に街を破壊する必要はない。軍勢で戦力を削いで、国の中枢である王宮を直接制圧すればいいのだ。


 ギフテッド教のみんなが既に王宮を離れていることは、幸か不幸か。私としては彼らが危険に晒されなくて嬉しい。

 でも神官がいなくて手薄な王宮を攻められれば一溜まりもないだろう。急がないと。


 側面の壁から王宮に侵入して、見慣れた廊下に入った。

 王宮の中は思った通り騒然としていた。逃げ惑う貴族、焦った様子で駆ける騎士、怯えて立ち尽くすメイド。

 彼らの動きの中心は、中庭かな。


 ふわふわと浮かぶ私を見ていよいよ泣き出してしまったメイドちゃんには申し訳ないけど、無視して中庭に向かった。

 吹き抜けになっている王宮の中央部、緑豊かな中庭に、ファンゲイルはいた。


「やあ、ずいぶんと可愛らしい姿になったね」


「あなたに言われても嬉しくないね!」


 死体が恋人の魔王は、相変わらず骨を抱いていた。

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