第37話 二体の魔物

 カールが持ってきた知らせを聞いて、アレンはすぐさま動き出した。


 戦力として、アレンはそれほど大きくない。口さがない言い方をすれば、いてもいなくても変わらない。ギフトもなければ実戦経験もほとんどないため、兵士よりも数段劣る。だが、私とコミュニケーションを取れるのは現状アレンだけだ。半信半疑かもしれないけど、ある程度信じてくれているらしい。


「セレナ、行ってくる。カールが戦えるやつをありったけ集めてくれるだろうから、外で合流しよう」


「あはは!」


 手を上げて了承、そして街道の方向を指さし、次に目の位置を示す。確認してくるね、というジェスチャーのつもりだけど、伝わったかな?


「頼む」


 アレンはそう言って、カールとともに出ていった。


 数日空いたとはいえ、予想より早い。今回も様子見なのか、それとも本気で滅ぼす気で来ているのか。

 だが王国だって、黙ってやられるわけではない。先日の侵攻、そして悲しいことにいくつかの村が被害にあったらしく、人間側の警戒心もかなり高まっている。日和見の貴族たちは動いてくれないが、冒険者と兵士はすぐに出撃できるようにしてくれているのだ。


(私も頑張らないと!)


 急ぎ足で街道へ出て森の方へ進む。

 侵攻が始まるなら夜の間かと思っていたが、今は昼前だ。ファンゲイルの目的が分からないが人間にとっては好都合だ。


 見晴らしのいい舗装された街道は、馬に乗った冒険者や兵士が慌ただしく駆け回っていた。険しい表情を見るに、魔物は本当に来ているみたいだね。


 今は斥候によって魔物の種類や数の確認が行われている。迂闊に出ていって驚かせては申し訳ないので、街道からそれた雑木の中を移動する。自分の目でも見ておきたい。


(全力で行くよ!)


 といっても、移動するのに体力はいらない。空中を高速で飛び、障害物も無視して急いだ。


 『不死の森』にほど近い場所まで移動すると、魔物の軍勢は探すまでもなく視界に入った。


(うわぁ、いっぱいいる。前回の比じゃないね)


 舗装された街道は、魔物にとっても歩きやすい。人型の魔物のほとんどが、街道に所狭しと並んでいた。スケルトンやゾンビがほとんどだ。左右に身体を揺らし、黙々と歩き続ける。気の弱い者なら見ただけで失神しそうな光景だ。


 カラスやイノシシ、犬のスケルトンやゴーストの上位種と思われる灰色の魔物(私が選ばなかったサイレントゴーストかもしれない)は街道から外れた場所を素早く飛んでいる。


(二百……三百くらいいる? もっとかも)


 いったいどれほどの数がひしめいているのか。

 見ただけでは判断できないくらい、次々と魔物が溢れ出してくる。広い森とはいえ、どこにこれだけの魔物が潜んでいたのだろうか。あるいは、ファンゲイルがその気になれば魔物などいくらでも作り出せるのかもしれない。


 しかし、やはりエアアーマーは少ない。スケルトンなどの雑兵はいくらでも増やせるけど、高位の魔物はそうもいかないみたいだね。

 それでも見えるだけで十体以上はいるから、本気度が窺える。他にもDランクと思しき魔物が複数体いる。


 何より、先頭を駆ける二体の魔物。


「ふはは、人間程度、斧の一振りで殲滅してくれるわ!」


「今回ばかりは同意しよう。ファンゲイル様のお手を煩わせるわけにはいかぬからな。我らだけで片を付けようぞ。なに、人間など恐れるに足らん。」


「幹部のいないうちに功績をあげ、幹部に取り立ててもらうのじゃ!」


 成人男性の背丈よりも大きな斧を肩に担ぐ、牛の頭を持つ大男――ゴズ。

 馬の頭に知性を滾らせ、指先で器用に槍を回す大男――メズ。


(やばい、かも)


 私が今まで見た中でトップクラスの実力者が、ついに姿を現していた。

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