第22話 1000個たまりました

 空から叩きつけられた光の放流に飲み込まれた私は――無事だった。

 ぴんぴんしてた。


(ありゃ?)


 てっきりレイニーさんの容赦ない攻撃によって、万事休すかと思った。回避は不可能、死霊に効果抜群なジャッチメントホーリーを撃たれて、魂の一片すら残らず消滅するだろうと。


 蓋を開けてみれば、光が収まったあとも私はそのまま存在していて馬車に乗り込んで移動を再開する彼女たちを見送っていた。


(無効にした……?)


 そもそも、聖属性とは何か。

 聖属性の魔力は人間だけが持つ、神秘の魔力だ。人間ならギフトに関わらず少量の神秘性を帯び、聖属性系のギフトを持つ者だけが聖属性の魔力を扱える。

 逆に、魔物は聖属性の魔力を一切持たず、代わりに闇属性という特有の魔力を持つ。神の力である聖属性を持たないことが、魔物が神の庇護下にないという教義の根拠の一つになっている。


 聖属性はあらゆる魔物に多少の効果を及ぼし、特にアンデット系に対しては絶大な効力を発揮する。逆に、人間に対してはほとんど効果がない。


 そう考えると私の存在はいびつだ。

 聖属性の魔力を内包し、聖女の魔法も扱える。なのに、魔物として闇属性をも携え、種族スキルも問題なく発動できるのだ。


 思えば、聖属性を無効化していると思われる場面はあった。スケルトンを弱体化させるために展開した聖域の中でも、私に影響はなかった。てっきり使用者だからかと思ったけど、聖属性自体を無効化していたのかもしれない。


(そういえば、ファンゲイルのソウルドミネイトも無効化したんだよね)


 肉体という魂を保護する器との結びつきが薄い、あるいは全くないからこそ、アンデット系は魂への干渉に弱い。

 なら、私の魂は? 闇に相反する聖属性があったから、干渉を防げたのかもしれない。もし支配されてたら一巻の終わりだったから、運が良かった。


(うーん、やっぱこの姿じゃ警戒されちゃったね。レイニーさんになんとか伝えたかったんだけど)


 ファンゲイルに捕まりかけレイニーさんから消されかけ、と最近の行動にはやや粗が目立つ。もともと慎重なたちではないけれど、このままでは致命的なミスを犯しかねない。気を引き締めないと。


(とりあえずギフテッド教のみんなに接触するのはもう少し進化してからにしよう)


 偶然遭遇しただけで、話せるようになるまでは接触する気なかったのだ。予定通り動こう。行き当たりばったりの生前とは、一味違う私なんだよ!


 魂のなくなった骨の中に隠れて馬車をやり過ごす。

 それにしてもすごい数だ。レイニーさんの口ぶりから推察するに、もしかして皇国は王国との同盟を破棄したのかな?


 自分で言うのもなんだけど、私って一応聖女で皇国からは大事にされてたし、勝手に処刑されたらそりゃ怒るよねー。

 でも皆がいないと王国は大変なことになる。これは、一刻も早く進化する必要があるね。


(街道の魔物を駆除しよう。少しでも減らしておけば、被害が減るかもしれない)


 焼け石に水だろう。でも、やらないよりマシなはず。


 私は馬車とは反対方向に進んで、街道付近の魔物を駆除して回った。

 一昼夜掛けて、魂は順調に集まっていく。


 そして、ついに要求数である千個に達した。

 文字通り草葉の陰に隠れて、神託を使い進化系譜を確認する。


『進化系譜

 進化先候補

 レイス(D)進化条件:LV30 必要素材:魂×1000 必要条件:願望

 サイレントゴースト(E+)進化条件:LV30 必要素材:魂×1000』


(やっと進化先出てきた!)


 必要素材がないと見えないの、結構不便だよー。

 今回も進化先は二つある。一つは単純に上位種っぽい名前のレイスでランクもEからDに上がってるね。ランクは文字配列順だから分かりやすくて助かる。一番上がAだから結構下だ。


 もう一つはサイレントゴーストで、こちらはランクがEプラス。

 進化というより、種類が変わるようだ。オニビがキツネビになった時と同じだねー。スケルトンソルジャーもEプラスだったから、大きく見た目の変わらない進化は半分しかランクが上がらないみたい。


(あの時はスケルトンになりたくなかったからキツネビを選んだけど、普通にレイスになっていいよね?)


 レイスという魔物は知っている。ケラケラ笑うだけで無害なゴーストとは違い、人間を襲うこともある危険で厄介な魔物だ。ごく稀にしか発生しないけど、一度発見されれば冒険者に特別依頼が出されるほどである。

 サイレントゴーストというのは聞いたことない。どんな魔物なんだろう。


(ていうか必要条件の願望ってなに!?)


 ここにきて、新たな条件が増えてる。

 レベルや素材はなんとなく理解できたけど、願望はよく分からないよ。


(決めた! レイスになる!)


 いつものように天使様の声が聞こえてきて、進化が開始された。

 白いシーツを被ったような見た目だったけど、果たしてどうなるかな?


(あ、水たまり探すの忘れてた)


 この辺に自分の姿を見れる場所あるかな。井戸とか川とかでもいい。

 なんて雑念に気を取られているうちに、つつがなく進化が完了した。


 全体像は見えないけど、身体を動かしてみると一目で分かることがあった。


(黒くなってる!)


 白いひらひらだったのが、黒い外套みたいになっていた。ボロ着のような黒布がぐるりと巻いてあって、雨の日の子どもみたい。

 身体の形も変わっている。ヒトダマになってからというもの、ずっと球体だった私の身体だがついに頭と胴体が別になった!


 相変わらず細かい造形はないけど、外套に包まれた球体の胴体の上には、これまた球体の顔がある。感覚的に、フードを被っているのかな?


 手も長くなった。人間の子どもくらいはあると思う。足はない。


『種族:レイス

 ギフト:聖女

 種族スキル:ポルターガイスト

 獲得スキル:ソウルドレイン、火の息、ファイアーボール、ケラケラ』


「あはは!」

(まだ喋れなかった! でもあと少しな気がする!)

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