第30話

「ふんふんふーん」

 

 僕は鼻歌を歌いながら歩く。

 まだ。まだ僕があまり人の記憶を喰らっていなくて、純粋だった頃に僕は終焉騎士団の奴隷になった。

 その頃の僕はよく鼻歌を歌いながら歩いていた。この世界に転生したばかりの僕はまだいい子だったのだ。

 今僕がいる場所はこの王都内で終焉騎士団に与えられた土地の中。

 こうして僕が鼻歌を歌いながら歩くことによって僕が来ているよーってことを教えているのだ。

 ちなみにだけど、僕の後を10人くらいがこそこそ監視しながら尾行してきている。

 やっぱり僕は人気者なんだね……お願いだから殺気はぶつけないでほしい。反射的に反応してしまうから……。


「バングはどこかな?」

 

 バングの気配がしているところに向かった僕は歩く。今回の件についてバングと少し話したいことがあるのだ。


「そんな……ッ!」

 

 僕が中を歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 これは、闇の聖女、サーシャの声かな?


 どうやらゲーム通りに物語は進んでいるようだった。……現在の状況はあまりにも僕の知っているシナリオからずれすぎている。

 ここで僕が変わりに戦うことで勇者たちの成長面についても考えたが……よく考えてみれば僕がルトたちの敵として変装して戦い、無理やり成長させれば良いという事に気づき、好き勝手動くことにしたのだ。

 予定変更。バングの前にまずは彼女たちに接触することにしよう。


「どうしたんだい?」

 

 僕はサーシャの声がした部屋の方に向かい、扉を開けて一切の躊躇なく中に入り、言葉を口にする。


「へ、へぁ!?……あ、アウゼスくん……」


「アウゼス……」

 

 部屋の中にいたのはサーシャと、僕の最初のパートナーにして、終焉騎士団序列第二位の女性、ミネルバがいた。


「ノックして……」


 いきなり入ってきた僕にミネルバは不満げな声を上げ、ジト目で僕のことを見つめてくる。


「別に良いでしょ?知らぬ仲じゃないんだしさ」

 

 ノックしたら誤魔化されそうだったしね。

 僕が会いたかったのはサーシャ。ノックしたらびっくりとして隠れてしまう気がしたのだ。


「え?お知り合い、なんですか?」

 

 友好的に会話を行う僕とミネルバを見てサーシャが驚きの声を上げる。


「まぁ、ね。それで?何の会話をしていたの?……僕が力になれる気がするんだけど」

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