第8話

「本当に誰?」


 僕は首を傾げる。

 触手が飛んできた方向そこにいたのは見たこと無いような化け物だ。

 ……気持ち悪い。

 その化け物を一言で現すなら人を象っている何本ものタコ足。

 確実に八本は越えているであろうタコ足がねじれあい、顔と腕と足と胴体を形成している。

 キモい。

 こんな気持ち悪い化け物は初めて見る。……え?ナニコレ。


「ぐが……ふい……」

 

 おそらく顔だろうその場所に存在しているタコ足がわずかに振動し、よくわからない音を、かすれ声にならぬ声を呟いた。


「……何だ?それは……お前ら吸血鬼の……?」


 なんとか立ち上がったアーレスがこの化け物を見て僕に問う。


「その吸血鬼というくくりの中に僕を入れないで?僕はあんな化け物知らないし、知りたくもないよ。あんなキモい怪物は作れないよ。僕にできるのは記憶の再現。喰らった人間を出したりとかは出来るけど、あんな化け物を喰った記憶はないし、化け物なんて作れない」


 嫌悪感を丸出しにして僕は告げる。僕の中に存在している数多の記憶がこの化け物にNOを叩きつける。生理的に受け付けないと。久しぶりに僕の中で感情が揃った。


「そうか。じゃあ吸血鬼関連じゃないと?」


「いや、多分吸血鬼。悪趣味な吸血鬼が作った眷属だと思うよ。吸血鬼の眷属じゃなかったとしたら相当な年月を生きたノーライフキングの実験動物かな?」

 

 この化け物は未だに僕の血による感知から逃れている。

 今は視界に捉えているから認識出来ているが、目を閉じれば僕はこいつの存在を認識出来なくなってしまうだろう。

 たとえ寝ていても、どんなに離れていても完璧に他者の存在を感知出来る僕が、だ。一度ロックオンすれば世界の何処にいようとも感知出来る。何をしているかなんとなくわかる。

 吸血鬼の情報網は化け物だ。僕の感知を逃れられるのは人間だとガンジスか終焉騎士の団長くらい。吸血鬼以外のアンデッドだと多分いない。ワンチャンあるとするのならノーライフキング。吸血鬼でも、下手なエルダーヴァンパイアでも逃れられない。……こいつは最低でもノーブルヴァンパイアの眷属である可能性が高いだろう。

 

「……結局お前ら吸血鬼かよ」


「ふん。こんな悪趣味なものを作る吸血鬼と同類にされたくないね。吸血鬼にもいろんなのがいるんだよ。お前ら人間のようにね」

 

 僕はそれだけ伝える。


「……っ」

 

 それに対してアーレスは憎悪の表情を見せる。全く失礼な奴だ。

 

「……とりあえずは倒したほうが良いよね?」


「いや、出来れば捕縛してくれ。俺らはこれの調査のために来たのだ」


「りょーかい。その代わりに色々と情報はもらうよ」

 

 僕は臨戦態勢に入った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る