闇の聖女

プロローグ

 深い闇。

 昼の訪れぬ闇の世界。閉ざされた夜の世界。

 そんな世界を僕は歩く。


 ピシャンッ!!!……ゴロゴロ

 

 遠くの方から雷が落ちたと思われる音が聞こえてくる。

 

 ザーザーザーザー

 

 そして、全てを洗い流す大雨が僕の体を濡らす。

 世界の終幕。

 そんな世界を僕は一人は歩く。

 僕の目の前に見えるのは一つの巨城。

 古びた巨城だった。……ここに来るのも実に久しぶりだな……。

 剣によって強引に破られ、ボロボロになっている扉から城の中に入る。

 

 コツ、コツ、コツ、コツ

 

 静かな世界の中僕の足音だけが響く。

 僕が歩くのは記憶の中にあるものよりも汚くなった廊下。時折見える血の滲みと白骨が不気味さを引き立たせる。

 そして、僕は鉄で出来た冷たい巨大な扉に辿り着く。


「よっと……」

 

 僕は自分の目の前の巨大な扉を押して開ける。

 扉の先に広がっているのは真っ暗な洞窟。


「『灯れ』」

 

 数ある記憶の中から炎魔法を再現し、炎を灯す。

 洞窟内が照らされ、前が見えるようになる。

 僕は魔法によって作られた炎を便りに再び歩き出す。

 洞窟内にあるのは鉄格子によって隔離された沢山の部屋。

 その部屋の中にあるのは腐敗臭を漂わせる腐った肉塊。たまにピクピクと未だに動いている肉塊もある。

 数多の実験の末路。実験体の末路。哀れな子羊たち。


「のっと」

 

 そして、僕は目的の場所に辿り着く。

 一つの洞窟。洞穴。

 姿見鏡とここを照らす一つの松明しかないような小さな空間。

 ……ここには僕が残した……。

 

 コツ、コツ、コツ、コツ

 

 僕が辺りを見渡すと、遠くの方から足跡が聞こえてくる。

 あの日。

 僕が初めてこの世界で意識を覚醒させた日と同じように。同じ場所で。

 感じた足音。

 僕はゆっくりと振り返る。

 足音は随分と近いところにまで来ていた。


「……久しぶりね」


「うん。そうだね」

 

 だが、ここに来る人間はあの日とは違う。

 入ってきたのは、巨大な杖を持ち、ローブを身にまとったいかにも闇の魔術師と言った感じで、頬がこけ、一切の生気を感じられない一人の男ではなく、輝くような金髪を持った生気に溢れている美しい女性だった。

 微弱な聖なる力を纏った鎧でその身を包み、これまた微弱な聖なる力を纏った剣を腰に差した女性。

 

 彼女は終焉騎士の一人だ。

 

 アンデッドの、吸血鬼の敵にして僕の最初のパートナーだ。

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