第54話

「いって……」

 

「きゃぁぁぁぁあああああああああああ!!!」

 

 いきなり飛んできた僕を見て町を歩いている人たちが悲鳴を上げる。

 まぁそれもそうだよね。いきなり人が飛ばされてきたんだから。

 僕が飛ばされたすぐ隣に立っていた女性は腰を抜かし、へたり込んでいる。


「『呼雷神』」

 

 僕は魔法を使って結界ごとルトたちをここに持ってくる。

 呼雷神はマーキングをつけたものを自分のそばに持ってくる魔法だ。結界には最初からマーキングを仕掛けている。

 

「全く面倒な能力を持っているなぁ君は」

 

 血の翼を広げた二人が僕の元に降り立つ。

 吸血鬼。血の力を使う二人を見て街の人は絶叫を上げ、逃げていった。隣にへたり込んでいる女は恐怖からか失禁している。

 

「彼女を殺すにはどうやっても君を殺さなくてはいけないというわけか」


「ま、そういうことだね」

 

 どれだけ僕を引き剥がそうと結界はすぐに呼び寄せる。結界の中のマリアお姉ちゃんを殺すならまずは僕を殺さなければいけない。


「ふぅー」

 

 僕はゆっくりと息を吐く。

 未だに増援が来る兆しはない。……殺るか。

 僕は横でへたり込み、呆然としている女性に手をのばす。

 

「え?……いっがぁ」

 

 少しゴワゴワとした頭を掴み、ひねり上げる。


 ブチッ


 血しぶき。

 血しぶきが上がり、首をなくした体が力なく倒れる。

 僕は首を掴んだ伸ばした腕を持ち上げ、口を開ける。

 

 ごくっごくっ

 

 首から流れ出る血が僕の渇きを潤す。

 能力によりその血は何倍、何十倍、何百倍へと膨れ上がる。


「ふぅー」

 

 僕は手に持っていた首を投げ捨てる。

 わざわざこんな女の魂を喰らう必要はないだろう。

 

「くっはっはっはっは!」

 

 僕が容赦なく何の罪もない人を殺し、血を吸ったことに対してファートゥムは嬉しそうに笑う。


「そうだ!そうだ!それでこそ吸血鬼だ!我らが同胞だァ!」


「……何か勘違いしていないかい?別に僕は普通に人間を殺すよ?」


 全く一体どれほどの人間を僕が殺してきたと思っているんだろうか。

 

「……ならば何故人間の味方をする!?」


「なんで僕が吸血鬼の味方しなきゃいけないの?」


「……同胞を何だと!」


「エサ。それよりどうしたの?いつもの余裕はどこに行ったの?らしくないよ?」

 

 僕はファートゥムをあざ笑う。


「……もういい。お前を殺す。……くっ。何故……私では……」


「君がどう思おうと勝手だけど」

 

 全く。なんでこいつはこんなに怒っているんだが。別に僕と君の間には深い関わり合いなんてないでしょうに。

 あの女ならいざ知らず。


「君たち二人になら負けないよ?僕」

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