【側近の手記】解説

カーヴァンク氏の側近の手記である。

この側近とはつまり、【教授の手記】に登場する教授である。


彼が、新薬を自らに打つことを決意し、

思考を放棄するまでのあいだ、

巡らせた思考の切れ端だ。


彼は、自らの妻に新薬を投与したことも、

彼自身が同じ道をたどることになったことも、

カーヴァンク氏の責任とは考えない。


カーヴァンク氏は彼に提示された

(存在感が強めの)選択肢であり、

選択をしたのは彼自身だからだ。


責任とは、本来そうあるべきものだと彼は考える。

上手く諭されたにしても、

小狡く騙されたにしても、

選んだのは、話を聞いたのは、自分自身なのである。


彼が受けた相談というのは、

カーヴァンク氏が”己を超えた者”となり、

人々を管理し続ける計画のことだ。


思想あるものが、己の思想を超えること。

それは、カーヴァンク氏をもってしても、一人では抱えられないものだったのだろう。


たとえそれが、思想がなくなってしまうと

知っているから話された相談だったとしても、

彼は自らを最初に頼り、自らの最後にも頼ってきた主を

「可愛らしい」と思っていた。

すっかり精悍になった彼に、その表現をするなんて、

自分だけだと、少しの自惚れを含んで。

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