異世界で聖女モノのエロマンガを描いてるんだけど、なぜか聖女さまの住む大聖堂から頻繁に注文が入る件

あきらあかつき@10/1『悪役貴族の最強

エピローグ 英雄の誕生

 まさかこの世界の人間は『エロマンガ』という言葉が、俺の前世の世界では、卑猥なイラストでストーリーを描く書物を意味する言葉だとは夢にも思っていないだろうな……。


 ミナリア王国の王都ガルナの中心部にそびえ立つボルボン宮殿。


 その巨大なバルコニーには俺、リュータ・ローと国王オルセラ一世の姿があった。


 そして、そんな俺と国王の姿を一目見ようと宮殿前広場には幾万もの民衆がひしめき合う。


「民衆よ聞けっ!! この男こそがミナリア王国を救った大魔術師リュータ・ローだっ!!」


 そう国王から紹介された俺は民衆に向かって大きく手を振る。すると民衆たちはいっせいに「「「「うおおおおおおおおおっ!!」」」」と口々に歓声を上げる。


 民衆たちのボルテージは最高潮に達していた。もちろん、その歓声は王国の窮地を救ったと民衆が信じる俺に向けられたものだ。


 そんな歓声を全身で浴び、俺は……正直後ろめたい気持ちだった。


 確かに、俺はこの王国のために全力を尽くしたし、もしかしたら王国を窮地から救ったのかもしれない。


 だけど……だけどだ。少なくともここにいる数多の民衆も、そして隣で高々と俺の名前を叫ぶ国王さえも俺のことを誤解している。


「民衆たちもみな知っていることだとは思うが、この大魔術師は聖女リーネのみが操れる奇跡の魔導書『エロマンガ』を記した天才魔術師である。この男なくして今のミナリア王国はないと言っても過言ではないっ!!」


 いや、このおっさん自分で『エロマンガ』とか叫んで恥ずかしくないのか? 仮にも国王だぞ……。


 が、もちろんこの世界、少なくともこのミナリア王国にとって『エロマンガ』は奇跡の魔術書であり、俺の知るエロ漫画とは違うのだ。


 だから民衆たちも国王の言葉に熱狂する。


 そして、


「「「「「エロマンガっ!! エロマンガっ!! エロマンガっ!! エロマンガっ!!」」」」」


 と、恥ずかしげもなく奇跡の魔導書の名前を大声で叫ぶ。


 なんだこの光景……。


 さっきも言ったが民衆の叫ぶ『エロマンガ』はエロ漫画ではない。だけど、その光景があまりにもシュールで俺は苦笑いを浮かべることしかできない。


 ホント引き返せないところまで来ちまった感が半端ない……。


 本気で民衆たちも国王までもが俺を大魔術師だと信じているのである。


 だが言っておこう。俺は大魔術師でもなければ、彼らが叫ぶ『エロマンガ』などという魔導書もこの世には存在しない。彼らは誤解をしているのだ。


 ならば俺はいったい何者なのか?


 ――ただのエロ漫画家だよっ!!


 俺はただ前世の記憶を頼りに聖女モノのエロ漫画を描いていただけだ。それがたまたまあの変態大聖女リーネの手に渡り、彼女が興奮して、何故か魔力を覚醒させやがったんだ。


 それから俺は大聖堂でこっそり彼女のために聖女モノのエロ漫画を描くはめになった。


 だから悪いのは全てあの変態大聖女リーネだ。


 だけど普通に考えて、大聖女がエロ漫画を読んだおかげで魔力を覚醒させたなんて口外できないじゃん。


 それに王国は俺の隣で『エロマンガ』って叫んでる一見変態じじいが制定した法律のせいで、卑猥な書物の所持及び作成が禁止されている。


 見つかったら即刻処刑。そんな書物を大聖女が読んでいたなんて国王の耳に入ったら、とんでもない大事態だ。


 その結果、俺は聖女と一部の側近によって魔術師ということにされて、エロ漫画ではなく『エロマンガ』という聖女のみが操ることのできる魔導書を書いているってことになった。


 そして国王はそんな嘘にまんまと騙された。


 さらにタイミングが悪いことにこの王国は先日とある窮地に追い込まれ、聖女が覚醒させた魔力でその窮地から王国を救った。


 そして聖女はこう言ったのだ。


「この王国を救ったのは私ではありません。私の魔力を本当の意味で覚醒させた大魔術師リュータ・ローさまのおかげです」


 その結果、俺は国王に目を付けられ、俺のことは国内に大々的に喧伝されてすっかり英雄扱いである。


 ホント余計なこと言ってくれたわ……あの聖女……。


 だがもう遅い。こうなってしまった以上、俺は死ぬ気で大魔術師を演じるほかないのだ。


「「「「「エロマンガっ!! エロマンガっ!! エロマンガっ!! エロマンガっ!!」」」」」


 相変わらず民衆たちは気が狂ったようにエロマンガを連呼している。が、そんな民衆たちをじじいが手で制すると一気に広場は静まり返った。


「私はこの大魔術師の栄誉を讃え、男爵位を与えるっ!!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおっ!!」」」」


 と、民衆のボルテージは最高潮のさらに上を行く。どうやら俺はこのじじいの気まぐれでたった今、貴族に昇格したらしい。


 だがじじいの気まぐれはこれでは終わらない。国王は俺を見やった。


「私はお前に男爵に相応しい新たな名を授けるつもりだ。異論はあるか?」


 と国王は俺に尋ねた。


 もちろん異論はない。そもそもこのリュータ・ローって名前は前世の名前をもじって適当に付けた名前だ。それにそもそも国王にそう尋ねられて断ることのできる男などいない。


「いえ、仰せのままに」


 と俺が頭を下げると国王は「ふむ」と満足げに頷いた。


 そして、国王は再び民主たちの方を向いた。


「民衆たちよ。よく聞けっ!! この大魔術師の名は、これより奇跡の魔導書『エロマンガ』にちなんでエロマンガとするっ!! みな、異論はないなっ!!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」


 と、民衆たちの歓声が響く。


 ふざけんなじじいっ!! バルコニーから突き落とすぞっ‼︎


 俺はたった今、このくそじじいのせいで名前がエロマンガになった。


 つまり俺は今日からエロマンガ男爵だ。


『どうもわたくしエロマンガ男爵です』


 いや、地獄かよ……。


 死んでも嫌だぞ。そんな名前っ!!


 あぁ……死にたい……今すぐ死にたい。


 だが、ここにその名を恥ずかしいと思う人間は俺しかいない。


「「「「「エロマンガ男爵っ!! エロマンガ男爵っ!!  エロマンガ男爵っ!!  エロマンガ男爵っ!!」」」」」


 と、中学生のいじめのような歓声が響き、俺は膝から崩れ落ちた。そんな俺を見て国王は笑みを浮かべる。


「ほぅ……泣くほど嬉しいか」


 泣くほど死にてえよ……。


 だがそんな俺の悲しみも知らずに民衆たちはいつまでも「「「「「エロマンガ男爵っ!!」」」」」と歓声を上げ続けていた。


 民衆たちの歓声を聞きながら俺は、いったい自分の人生の歯車がどこで狂ってしまったのか記憶を巡らせていた。

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