第47話 予想外
予定よりも早く開いた鉄門を潜り、期待と興奮からか顔を高揚させ目を輝かせた生徒達が楽し気に並木道を歩いて行く。
生徒はこのまま入学式が行われる建物へと移動し、荷物を抱えている親や御者は職員に誘導され寮へと移動する。
「……混合クラス」
門で確認された紙には混合クラスと赤い文字で走り書きがしてある。
恐らく、文官と武官クラスを希望した者がこのクラスなのだろう。
案内書だと渡された新たな紙には建物内の簡略化された地図が描かれていて、混合クラスと文字が書かれた部屋は一番奥に位置している。
前に並んでいたラルフは武官クラス、エリー達は文官クラス。てっきりそのどちらにも席を置くのだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
ルジェ叔父様やダン達から聞いていた話しと違うと首を傾げ、一言も発せず隣を歩くラルフと共に入学式が行われる建物の中へと足を踏み入れた。
王都の学園で行われる入学式は、その年に入学した一番高位の貴族が壇上で挨拶を行い、次に学園ないで最も高位の貴族が挨拶を行う。そこに立てる者は学園のトップに君臨する者で、皆の憧れでもあるという。
援助金や特待制度で入学してくる者も考慮し、クラスは家の階級で編成され諍いが起こらないよう配慮されている。
午前中は勉学、午後はマナーレッスンや各自が部屋や庭園を借りて行うお茶会。休日は同じ派閥の者達と観劇や音楽鑑賞に出かけるという。
その他にも、お母様や叔母様から学園内での生活、催し物などの話を聞いていた。
だから、軍学校と学園で多少の差異はあれど、それほど驚くほどのものではないだろうと侮っていたのだろう……。
式が行われる会場の椅子には黒いリュックが置かれていて、足元には木の箱。
どうにも見覚えのある品々に困惑しながら周囲を見渡せば、コレは何だ……?と私と同じように戸惑っていた。
どの角度から見ても個人装備なのだが、何故今この場にあるのか分からず視界の隅に入れたまま始まった入学式。
数名の軍人が壇上で黒いリュックを頭上に掲げ、中に入っている装備品を取り出しながら使い方の説明を始め、更に彼等は木の箱から取り出した短剣の扱い方を熱心に語ったあと満足気に壇上を下りて行った……。
唖然としている間にも入学式は続けられ、教員と思わしき男性が壇上に立ち淡々と説明を始めている。
軍学校では午前中は基礎学力の勉学、午後はクラスによって訓練内容が変わるので担当の教員の指示に従い行う。学力試験、模擬試合の結果如何によっては希望するクラスから別のクラスへ移ってしまうらしい。
一年次は休日に外出する際には制服を着用することが義務付けられ、トーラスから出ないという行動範囲の制限もある。
「何か質問は?」という教員の声だけが会場内に響き、誰も手を上げないのを確認したあとさっさと下りて定位置に戻ってしまった。
「ねぇ、セレス。この個人装備、かなり重量があるよ……持てるかな」
「侍従が居ないので持つしか……意外と重いですね」
シルとセヴェリが小声で話しているのを聞きながら、膝に乗せていたリュックを背負い立ち上がった。
入口に近い文官クラスから誘導され、武官、混合の順で会場を出るのだろう。
「おおっ!セレスは力があるんだね」
「この木の箱を、片手で……」
驚いている二人に苦笑しながら、入り口付近で立ち止まっているエリー達を指差した。
か弱い彼女達ですら軽々と荷物を持っているのに、何故二人の腕じゃ震えているのだろうか……。
「……いや、え、私の筋力に問題が?」
「軍学校に通うだけのことはありますね……」
「そのままだと、二人は来年文官クラスだな」
眉を下げ悲し気な顔をしてもこればかりは助けてあげられない。
「でも、この混合クラス……貴族を集めたんじゃないかな?」
「ほとんどが貴族のようですからね」
ルジェ叔父様の息子達もそうだが、軍学校に入る貴族は文官と武官クラスを選択する。
だから必然的に混合クラスは貴族が集まるのだが……。
「……面倒だな」
先程から此方を盗み見ている最前列に座っている者達を一瞥し、そう口にした。
軍学校では身分は関係なく実力主義だ。
けれど、貴族が固まる混合クラスでは身分による序列が存在しているのかもしれない。
明らかに敵意を含む視線を無視し、絡まれる前にさっさと退散することにした。
このあとは寮へ移動し、明日から本格的に学校生活が始まる。
先ずは部屋に置かれている荷物を整理し、早急に同室の子と良い関係を築かなくては。
「良いの、アレ……?」
「構わない」
「初日にしっかり調教しておけば、暫くは大人しくなると思うが?」
「セヴェリは今直ぐに口を閉じろ」
「私達から離れて歩いて」
「おい……!?」
二人も気にしないことにしたのか、セヴェリを揶揄いながら入口へ向かうシルの後を追いながら入学式の会場を出た。
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