第45話 軍学校


ランシーン砦にやって来たときのように、仁王立ちして立つ御爺様の胸の中に飛び込み幼子のように腰にしがみつく。

御爺様はあやすように私の背中を軽く数度叩き、壊れ物を扱うように頭を優しく撫でてくれる。家族以外の誰も見ていないのを良いことに、躊躇いなく甘える。


「……行ってきます」

「あぁ、……頑張れ」


御爺様に一度ギューッと抱きついてから離れ、隣で小さく両手を広げて待つルジェ叔父様のところにも同じように飛び込んだ。


「ルジェ叔父様、御爺様をよろしくお願いします」

「分かっている。安心して行っておいで」

「おい……」


どういう意味だ……?と私達を睨む御爺様にルジェ叔父様と顔を見合わせて笑ったあと、手を振って馬車に乗り込んだ。砦から軍学校まで僅かな距離だが、今日は荷物が多いので馬車を使っている。

街の中はまだ朝早い時間だからか人の気配がなく、店も開いていないのでとても静かだ。

馬車の窓から見える景色が凄く寂しく見え、もう砦に帰りたくなっている自分に気付き苦笑した。



中央広場から路地に入ると制服を着ている子達がちらほらと見え、そこを抜けた鉄門の前には既に長い列が出来ていた。

今日行われる軍学校の入学式には、軍部の上位陣が出席することになっているので普段よりも警備が厳しいと出席予定である御爺様から聞いた。

学生達は鉄門の前に立っている職員に昨日受け取った学生番号が書かれた紙を見せ、確認が取れた者から順に中に入って行くのだが……。


まだ時間よりも大分早い所為で職員は居らず、門周辺には荷物を抱えている生徒やその親が集まっているので、当然……私が乗っている馬車をジッと眺めている。

予め御者には門から少し離れた位置に止めるよう指示を出しておいたので、昨日のシルとセヴェリのようにはならないが。


持っていた紐で長い髪を一つに縛り、シャツのボタンを閉めてからズボンの皺を伸ばす。

軍学校の制服は性別関係なく全て同じ作りで、上は白いシャツに黒いベスト、ジャケットとズボンはベストと同系色の物で、足元は編み上げブーツ。

シャツが白でなければ全身黒一色で、それはそれで素敵なのでは?と思っていたら、そのシャツの色を自由に変えるのが軍学校で流行していると服飾店のおばさまが教えてくれた。

軍もそうだが、軍学校もある程度守らなくてはならない規則はあるが、それ以外に関しては緩く、理不尽な校則はない。


流行する物は場所によって違うのだと感心しながら、制服を届けてくれた服飾店の店員が差し出したシャツの絵が描かれた冊子を返そうとしたら、それを横から侍女に奪われ笑顔で首を振られた……。

私は白いシャツで何の問題もなかったのだが、彼女達の笑顔と言葉に屈し、違う色のシャツも数十着購入済みである。


そのときの事を思い出し身震いしていると、扉が叩かれ御者から声をかけられた。

見世物になる覚悟を決め馬車から降り、荷物を下ろしている御者に此処で待つよう言ったあと、背中に感じる熱い視線に苦笑しながら振り返った。




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