第12話 砦内探索


ランシーン砦に駐屯している軍人は極一部を除き、街から砦に通っている。

極一部というのは御爺様やルジェ叔父様のような上級の官職に就いている者達のことで、街に家はあるが、砦内に自身の部屋を持っているのでほぼ砦に住んでいるようなものだと言っていた。


稀に視察や協議の為に王族や上級貴族が訪れることもある。

その際、数日又は数カ月砦に留まることも考慮され、客室が用意されている。


が、この客室が用意された理由はお忍びで御爺様に会いに来る国王陛下や、軍資金について怒鳴り込みに来る宰相様の為らしい……。


ルジェ叔父様は、陛下は此処を避暑地か何かかと勘違いしているし、宰相様は御爺様と大抵三日三晩は論争を行うのだと嘆き。

普段一般市民がお目にかかれない高貴な身分の方達が気軽に滞在することで、訓練以外でも神経を擦り減らしていると、ロナさんとリックさんは愚痴を零していた。




私が案内されたのはまさにその客室で、隣の部屋には侍女や護衛用の部屋も用意されていた。

伯爵家の令嬢ということで一応規程に従って客人扱いとなるが、実際は軍学校へ入学するまでの三年間は軍の新人に混ざって鍛錬する。

御爺様の孫が来ていることは周知されているが、その孫がまさか訓練に混ざるようになるとは誰も想像していないだろう。


明日は砦内の設備や訓練場などを案内してもらい、各所への挨拶回りとなる。

役に立たない素人なのだから、せめて邪魔だけはしないようにしようと心に決め、ベッドに潜り込んだ。





「おはよう、セレス」

「おはようございます。ロナさん」


案内役として部屋まで迎えに来てくれたロナさんには、昨日の顔合わせのときに敬語は不要なことと、名前も呼びやすいように呼んでくれて構わないと伝えてある。

最初は「平民なのですが……」と恐縮していたけれど、気持ちの整理がついたのか「では、やるからには手加減しませんよ?」と口角を上げた顔がとても悪い顔だった。


「セレスは軍人でも見習いでもないから、案内出来るところが限られている。元帥……ではないけど、君の御爺様のことは皆まだ元帥と呼んでいるから」

「はい」

「元帥とルジェ大佐が居る区画、セレスの部屋がある客室区画、それと新人の訓練場と食堂はいつでも入れる。でも、他の上官の部屋が置かれている区画と、軍人の宿舎、武器庫、演習場、大広場は私かリックと一緒でなければ立ち入り禁止。街に行くのも、同行するのはセレスの上官である私かリックでないと許可出来ない。あまり自由がないとは思うけど、規定を破ると此処に居られなくなるだろうから気をつけて」

「御爺様の孫だから此処に置いてもらえるのです。他にも何かあれば、都度教えてもらえると助かります」


建物の中を歩きながら、私が滞在中に戦闘が起きたとき、真っ先に避難出来るように各区画にある非常用の出口や、砦で働いている職員用の避難場所を教えてもらい頭に入れていく。

そのあとは一旦最上階まで階段を上がり、一階まで下りながらの説明となった。

地位が高いほど上の階に部屋を持っていて、御爺様とルジェ叔父様の部屋、王族、上級貴族用の客室は最上階にある。その下の階からは各部隊の上官の部屋、作戦会議室、来賓室と、私には関係のないものが沢山あるので立ち入り禁止区画となっている。

建物の入り口がある一階には、食堂と医務室、大浴場。

そのまま建物から出て右側、木が生い茂っている方に新人用の訓練場。左の大きなドーム型の建物がある方には軍の演習場、武器庫、大広場がある。


もう新人教育は始まっており、ロナさんに連れられて訓練場に向かうと、そこには三十名ほどの新人軍人が……地に倒れ伏していた。


「ちょうど休憩時間が終わるとこかな?明日からアレと同じメニューをこなせとは言わないから大丈夫」


目に生気のない、無数の屍が転がっているのですが……。


「毎年此処へ配属されてくる新人の数は三十から四十くらい。武官、文官、両方とも午前中は基礎訓練を受けてもらう。午後からは配属された部隊で実地訓練。セレスは私からの合格が出るまで基礎訓練だけになる。……ほら、さっさと起きろ!そろそろ休憩は終わりだ!」


ロナさんの怒鳴り声に反応し、ノロノロと立ち上がった屍達が何かに突き動かされるかのように黙々と訓練に戻って行く……。

それを唖然と見送っていた私の肩をポン!と叩いたロナさんの「大丈夫。慣れだから」という言葉に頷くことしか出来なかった。








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