1-7

 来た、絢だ。今日は、髪の毛を束ねていなくて、風に揺れている。眼がくりっとしていて、瞳が大きく感じる。唇も小さいせいか、昔から、見ているので、美人なのかわからないが、なんか可愛い。


 浜に着くと、もう12時を過ぎていて、直ぐに、絢がお弁当を食べようと砂浜で食べだした。今日はおにぎりだ。こいつ、一つの箱にしてきゃがった。でも、僕の好物ばかり詰まっていて、おいしい。ボトルの冷たいお茶をその蓋に注いでくれたんだけど、僕の飲みかけを、絢はツレーと飲んで平気な顔をして、又、注いできたので、僕もそれを飲み干した。なんなんだろう、実家から離れて暮らしているせいか、絢がすごく身近な存在になっているのを感じていた。


 ここには、水族館もあって、僕にはとても興味があった。色んな海の生物がいて楽しい。中でも、サンゴの色々な生態に魅かれて、僕は、絢が飽きてくるだろう30分位そこに釘付けになっていた。でも、絢は何にも言わずに、僕がぶつぶつ独り言を言っているのを、腕を組んで脇に付き合っていてくれた。


 それから、展望タワーに登ったりして、浜辺で石を探して歩いたりして、真下に海が見渡せる先っぽの展望台に向かった。もう、夕陽が沈み始める頃だった。


「水平線がすごくて、きれいだね」


「うん ウチ等、海に馴染みないところだったから、いいよね海って、夕陽もきれいだし ずーと 見通せる こんなの初めて」


「あの海の底には赤いサンゴとかいろんな色のがすんでいるんだろうなぁ」


「モト君、サンゴ好きなの?」


「いや でも、アイツ等きれいな海じゃぁないと生きていけないんだ。環境の変化にも弱いし、だから、サンゴが元気に育っていると、海も汚染されていないし、魚達だって、安心して卵を育てたりして、結局、人間の生活を守ることになるんだよ」


「モト君はそんなことまで考えているんだ。だから、海洋で勉強しようとしているの?」


「うん そうなんかなぁー」


「わかった、すごいね そんなモト君に私も、付いて行って良いカナ? この水平線の向こうには、何にも無いかもわかんないけど ウチ モト君と一緒なら・・」


 僕は、無性に絢が可愛いかった。そして、離したくなかった。周りに人もいなかったし、絢の肩を抱き寄せ、顔にかかった髪の毛を分けると、シャンプーのいい香りがした。絢の眼は大きくないが、透き通っていて、真っ直ぐ見つめられると、真っ黒な瞳の中に吸い寄せられる。「絢」と言いながら、唇を寄せていった。絢は、嫌がることも無く、顔を上に向けて、目を閉じていた。自然に、ふたりの唇は合わさっていた。


「絢、好きなんだ ずーと言えなかったけど」


「ウチも うれしい 大好き モト君」


 帰りの道に他の人も居なかったので、僕は絢の後ろから細い腰をぐっと抱き寄せた。絢も僕の胸に顔をあずけてきて、胸を押し付けるようにしてポツンと「すごく ウチ、うれしい  しあわせ」と・・


「それは・・君が つかみに来てくれたからなんだよ・・」と心の中で思っていた。

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