The night before Final Day.遥の憂鬱、カオリの困惑

 ふう。


 自宅でホットティーを飲みながら、私はため息をついた。


 ――聡、かっこよかったなあ。


 私なんて空気だったもんな、昨日。


 薫、もう戻る気ないのかな。


 何故かざわざわする胸を無意識に抑えて、何も出来なかった自分の無力を思い知る。


 カオリのピンチに聡を呼んだのは私だ。

 これで良かったんだ。カオリが助かったのだから。


 だけど。このままじゃきっとカオリはカオリのまだ。


 それがこんなに悲しいなんて思ってなかった。

 それがこんなに苦しいなんて知らなかった。


 そして――


 プルル、プルル


 悩んだ挙句結局かけてしまう電話。


『もしもし?』


「……。」


『? 遥、どうしたの?』


「……。」


 流れる沈黙。


 けれど、カオリは切らない。


 私の言葉を待ってくれてる。


「薫――カオリ、アンタ自分を大事にしなさいよ?」


『急にどうした??』


「私、あなたがどんな選択をしても、ちゃんと応援するから!!」


『だからどうしたの??』


「後悔しない道を選んで!! じゃあね!!」


 泣きそうな声で絞り出すようにそう言うと一方的に電話を切った。


 ――少しは心配、してくれたりしないかなあ。


 そんな期待をしている自分に嫌気がさす。

 自分の気持ちと矛盾した行動ばかり取ってしまう自分にも。


 カオルでもカオリでも、幸せになって欲しいけれど。自分の欲を捨てきれるほど大人にはなれない。


 あと1日かあ。もう薫に会えないかもしれない。


 そう思うと涙が出てきた。


 けれど。


 カオリをカオルに戻せるのは、きっと私だけだ。


 だから――諦めない!!


 ◇◇◇◇


 ツーッツーッ


 言いたいことだけ言われて切られた電話を眺め、僕は困惑した。


 遥、泣いてた――?


 マリの別れ際の言葉が脳裏をよぎる。


 なぜだか分からないけれど、胸が痛んだ。


 遥と聡、男に戻りたい気持ちと女でいたい気持ちの間で僕は悶え続けていた。


「僕はどっちが好きなんだ?!一体僕はどうしたいんだ?!」


 果てしなく続きそうなその問答も明日には強制的に答えが出てしまうけれど。


 結局僕はまだ自分の答えを出せないでいる――。

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