Day 6.カオリの邂逅~カフェ de マリト~
直人に連れ出された翌日。僕は半日動けなかったが、夕方頃なんとなくフラフラと街へ出た。
特に目的があった訳じゃない。人混みに紛れて自分の存在を一時的にでも忘れられないか、と思って。
雑多な街をあてもなくウロウロしていると。
「あれ? 君、こないだのクズ男くん??」
忘れようとしていた自分の存在を突然かけられた声に呼び起こされ振り返る。そこには見覚えのある人影が佇んでいた。
「えーと、マリちゃん?」
「そうそう、よく覚えてたねーカオリちゃん!」
「そっちもね。」
そう言うとどちらからともなく笑いあった。
「街角で偶然会うなんて奇遇だねえ! 何してるの?」
「いや、別に何も……。」
「ふうん?」
素直に答える僕を不思議そうに見上げると、突然。
「せっかくだからお茶してこー!!」
そう言うとマリは返事も聞かず半ば強引に僕の腕を取り、近くのコーヒーショップへと引きずり込む。
ドリンクとケーキを僕の分も勝手に注文して受け取ると、2人がけの席へと移動した。
「カオリちゃん、じゃなくてカオルくん? 今君って好きな人とかいるの?」
ぶっ!!
口にしたキャラメルマキアートを盛大に吹きながら、
「どうしてそんなこと聞くの?」
「なんかさー、遥が心配してたんだよね。カオルくん、元に戻りたくないんじゃないか、って。」
!!!!
「なんでかは知らないし、聞く気は無いけどネ。」
実は昨日、聡に助けられて、肉まんとコーヒー貰って、涙拭いてもらって……聡がとても輝いて見えて仕方なかった。
もし元に戻れなくても、聡がいてくれるならそれでいいかな……なんて思っていたのを見透かされたようで変な汗が全身から湧いてくる。
「別に元に戻りたくない、って思ってるならそれを責めるつもりはないよ。ただ、自分が本当はどうしたいのか――そこはハッキリさせた方がいいと思う。」
そこで一息つくと、マリは自分のキャラメルマキアートを1口含み。飲み下して続ける。
「あと1日なんでしょ?本当は、自分はどうなりたいのか。カオルくんに戻りたいのか、カオリちゃんのままでいたいのか。ちゃんと見つめ直した方がいいかもね。私は君がどんな選択をするのか分からないけど、遥はきっと君がどんな選択をしても尊重すると思う。だって遥は君を――。」
少し言い淀んだ後、続けた。
「心の底から心配してるから。」
「そっか。」
「うん、だから、自分の気持ちに嘘ついちゃ絶対ダメだよ?」
いつになく真剣なマリの言葉に、胸が詰まる。
僕は誰が好きなんだ?遥なのか、聡なのか。元に戻りたいのか、そうでないのか。
頭が混乱してきた。
「じゃあ、それだけ伝えたかったんだよね! ここのお会計は私が奢るから。」
席を立ったマリは、何か言いたげだが迷うような仕草を見せ――、結局口を開く。
「遥は君の選択を尊重する、だろうけど――彼女の親友としては、もう少し遥のこと、見てあげて欲しいな。」
そう言って強引に誘ってきた女はこれまた勝手に去っていった。
残り1日、か。
明日は聡と会う約束が入っている。
一体どんな顔して会ったらいいんだろうか――。
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