第9話 魔法学校

 十歳になるとソルは魔法学校なるものに入学した。魔法学校は魔法が使えるようになると判断されれば入学することができ、共和国の各地にあった。ソルは共和国政府内の政府付属の魔法学校に入学した。そこがもしベルーラスの猛攻があってもソルを守れる場所だと法王が裁定した結論だった。

 魔法学校は遊びの魔法園とは違い、魔法の基礎を徹底的に叩き込まれる。入学した者は皆、自分たちは普通の運命を生きられない、神と共和国の人々に忠誠を誓う事を教育される。子供じみた悪ふざけ一つ許されない。しかし厳しいからといって脱落も許されない。

「卒業する十五歳まで、大人になりなさい」

 それは魔法学校の教師が繰り返す言葉だった。

 ソルは魔法学校で順調に成長していった。魔法は誰よりも早く覚え、確実に安定して使えるようになっていった。魔法など嫌いだという気持ちには変わらないが、魔法が起こす幸福を誰よりも理解していった。

 心のほうは泣き虫で、すぐ何かに怖気づく性格を引きずっていたが、体が大きくなるにつれてその心もだんだんと男らしい勇ましいものに変わろうとしていた。

 ソルが十二歳の時だった。その頃のソルはまず身長がよく伸びていて、母のシエロを追い越そうとしていた。それでいて運動神経も良く、俊敏な動きができた。それはテレノから受け継いだものだった。体格の良さと俊敏さは戦場を戦うのに不可欠な要素であり、ソルへの期待はいよいよ大きくなった。

 一つソルへの問題を上げれば、魔法への向上心の薄さだった。

 ソルの成績は魔法学校でトップだった。だができる者へはどんどん難しい魔法を教えたい教官達は、無難にカリキュラムをこなすだけに見えるソルが歯がゆかった。

 その日もソルは担任の女性教官に呼び出され、個人面談を受けていた。

「もう少しやる気を見せてくれると先生達は嬉しいんだけど」

 ソルは女性教官の目を真っすぐ見られない。

「たまに居残りに参加しないの?」

 居残りとは魔法ができない者はできるまでやる。上達している者はさらに磨きをかける。放課後のレッスンの事だった。参加は強制ではないが、体調不良でもない限り、さぼるのはソルだけだった。その点でソルは問題児だった。

「家では何をやっているの?」

「読書です」

「何を読んでいるの?」

「色々です。図書館にあるものを片っ端から読んでいます」

「図書館にあるのは魔法に関する本しかないから、それはそれでいいけれど」

 ソルと女性教官は入学時からの付き合いだから、もう三年の付き合いになっていた。

「嫉妬されるのも期待されるのも、やっぱり嫌なのね」

 あまり自分の能力を見せつければ、クライスメイトが嫉妬をし、大人達の期待はますます膨れ上がる。それがソルには窮屈でしょうがいないのを女性教官は理解していた。

「気持ちのいいものではないです」

「まぁね。といっても私はそこまでの能力がないからここにいて、ソルの気持ちなんて本当に何も理解できてないのかも」

 女性教官は笑って見せて言ったが、ソルは反応しない。

「週に何度かの法王様との面談でどうなっているのかしら」

 ソルの本当の実力がどうなっているか、それは法王と将官クラスの司教にしか伝えられていない、極秘事項だった。はっきり言ってしまえばこの頃のソルはすでに魔法学校で習う司教の魔法は簡単に使いこなせていた。

 長い個人面談という名の説教は終った。それが何回か繰り返され、ついにソルは我慢できずに法王に自分の実力を女性教官に伝えてほしいと頼んだ。

「まぁ、いいだろう。いずれ皆がソルの実力を知るのだから」

 法王はあっさりと受け入れた。

 ソルはあの自分が生死を彷徨った魔法陣の間で、魔法学校に入学すると法王から講義を受けていた。講義とはソルの魔力を限界まで引き出すレッスンだった。ソルは魔法陣の間で女性教官に自分の魔力の限界までを実際に見せてみた。

 女性教官は驚愕した。十二歳のソルはすでに魔法学校で習う魔法を完璧に使いこなし、一つ上の高等魔法学校で習う魔法を身につけようとしていた。高度な魔法を使うにはより多くの魔力を使うが、ソルはその魔力さえ十二分に身に付けていた。十二歳のソルが高等魔法学校を卒業する者よりも大きな魔力を身につけていた。

 女性教官はその日を境にソルに居残りをさせようとはしなかった。

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