ときどき映画な彼女

かわき

彼女の本性

🎬カチンコ

「探したよ達也君! こんなところにいたのか!」



 突然僕の名前が校舎の階段に響き、驚いて顔をあげる。そこにいたのは見たことのない、でも変な雰囲気を放っていることは分かる、そんな女子生徒が立っていた。



「達也君どうしたんだ、そんなきょとんとした顔をして。今はこんなことをしている場合じゃないだろう? 君の役目は何なんだ」



 コツコツと足音を立てて、その女子生徒はゆっくりと階段を降りてくる。



 その時、周りにいたやつらがひそひそした声で「出た、障害者」「中二病の谷口だぞ」「次のターゲットはあいつか。可哀そうに」と、はっきりとわかるように言うのが聞こえた。



「急になんだよ、訳の分からないこと言いだして。――それに、恥ずかしいからさ……」



 女子生徒は足を止め、僕の話を割り込むように話し始めた。



「何とぼけたことを言っている。君の家は今火事で、まだ家の中には取り残されたおばあちゃんとペットのポチがいるだろう」



 また訳の分からないことを口にしたので、急に頭が痛くなり、僕は頭の上の辺りを手で押さえた。



 おばあちゃんは別の家に住んでいるし、ペットなんて飼っていない。中二病野郎のいう事がはったりだとすぐに分かった。



「僕を君の遊びに巻き込まないでくれ。君はおかしい。普通じゃない。周りが見えないのか?」



 僕はハァ、と大きくため息を吐く。わかりやすく。僕は疲れたのだ。ほんの数十秒で。この中二病野郎は人を疲れさせる天才だ。



 これでやつも大人しくなっただろう。そう思って階段を上ろうとしたときだった。突然やつは僕の肩に手を置いてきた。そしてこう言う。



「私はこれが、普通だと思うんだけどな」



 この時やつは笑っていた。上目遣いで僕の顔を覗き込んでくる。この時初めて、この中二病野郎に身震いを覚えた。



 名前は知らない(おそらく谷口という苗字なのだろう)この人物は、会ってまだ一分もしていないのに、この僕にという感情を抱かせた。



 肩に置いた奴の手を払おうとした時、やつは自分から手を下ろし、そして何事もなかったかのように階段を下りて行った。



(変わったやつ。気持ち悪いやつ。中二病野郎)



「何なんだよあいつ。何事もなかったようにして……」



 僕は周りを見ると、誰とも目が合わないのに気が付く。まぁ、陰キャで友達も少ない僕だったので、これぐらい日常茶飯事だけど。



 しかし、今目が合わないのは僕が暗い雰囲気を醸し出しているからではない。やつだ。中二病野郎だ。みんなやつとは関わりたくないのだろう。だから関わった僕とも関わらないようにしている。



 僕はあいつを許せない。



 たった数十秒の出来事だったが、やつとの出会いは最悪だ。



 またやつにちょっかいをかけられないことを願って、僕は音楽室の扉を潜り抜けた。






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