情報収集
「まったく……どうしてこんなことに……」
(あんまりぶつぶつ言ってると他の人に聞こえちゃうよ~)
「分かってますよ」
ユキの有無を言わせない勢いで、ユミエラの依頼を引き受けることになってしまった心美は、彼女を町まで送り届けた後、フロストドラゴンの情報を集めていた。
聞き込みから始めて、生息地などの情報を獲得したのちにフロストドラゴン自体の情報もきちんと得て、今は人波を縫うようにするすると歩きながらぼやいているところだ。
「生息地はここからは少し遠いみたいですね。フロストというだけあって寒いところにいると思っていましたがドンピシャでした。移動はそれほど問題ないのはいつものことですが、寒い地域に滞在するとなると……防寒対策はしっかりしておいた方がいいですかね」
予定通りに事が進むのならば日帰りできる可能性も十分にあり得るが、目的を達成できずに滞在する羽目になるかもしれない。
行くと決まっている以上備えはしておいて損はない。
「最低限の備えをしたら帰りましょう。帰ったら全員集めて会議です」
(おー)
集めた情報の共有。足りない情報の吟味。
そして旅の計画、などなど。
するべきことが山積みなのだが、白い相棒からの返事はどうにも気の抜けるもので、心美は苦笑いを浮かべるのだった。
♡
予定通りに買い物を終えて帰宅した心美はみんなを集めた。
お茶とお菓子を囲んで座る様子は、優雅なお茶会そのものだ。
議題の内容が内容なので、優雅という訳にはいかないのが心美の悩みどころなのだが、どのみち話はしなければいけない。
「ということで南の方にある雪の国、グレイシアに行くことになりました」
「……えー、ボクパスしてもいい?」
「ダメです」
「ですよねー」
心美はまず目的地を告げた。
その段階で難色を示す者がいる事は容易に想像できたが、予想通りの反応を見せられた心美は半笑いでその申し出をバッサリ切り捨てる。
雪の国、グレイシア。
その目的地を告げただけで、何をしに行くかなどは一切話をしていない。
だが、その情報だけでその環境は自分にとって都合が悪いということを一瞬で判断したアオバは、心美に慈悲を求めたが、そんなに甘くはなかった。
(また面倒事……?)
「まあ、面倒事と言ってしまえばそうかもしれませんが、とある方から受けた依頼です」
スカーはテーブルの上で背を伸ばして、呆れたように心美に尋ねた。
まだ肝心の内容までは話していないが、こうしてわざわざ全員を集めて話をしているという状況から何かを察したスカーは目を細めた。
(ユキの機嫌がいいから嫌な予感がするけど……)
「まあ、その予感もあながち間違いではないでしょう。では、目的を言いましょう。今回の依頼はフロストドラゴンの牙と鱗の入手になります」
心美は申し訳なさそうにして、依頼の内容を告げる。
その内容を耳にしたスカーとアオバは、訳の分からないと言って顔で、凍り付いたように固まったのだった。
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