その瞳に何を映す?⑰解錠閲覧
思い出を呼び起こすキーアイテムとなるかもしれない写真立てを片手に、心美はアオバ達のいる部屋へと戻ってきた。
心美がどこかへ行っていたことは気にも止めていなかったのか、戻ってきた心美を見て初めて彼女が部屋を抜けていた事に気付いたアオバは少しだけ驚いたような反応を見せた。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい。いつの間に抜けていたんですか?」
「つい先程ですよ。さっきパズルのピースを探してい時に気になる物を見つけていたのでそれを取りに行っていました」
「あ、もしかしてそれがそうですか? ちょっと見せてくださいよ」
そう言ってアオバは心美の手にある写真立てを取り、まじまじと眺める。
「わ、これってヒロくんの家族の写真ですか? とても仲良しな感じがよく分かりますね! あ、ヒロくんも見てみて下さいよ!」
「あ、ちょっと……。はあ、アオバもせっかちですね」
心美はヒロへ向かったアオバの背中に手を伸ばすが、一足遅くその手は空を切る。
元々、機を伺ってヒロにそれを見せるつもりだった。
だが、心を読めない――何も知らないアオバは心美の心積りなど関係ないといったように、自分の思うままに行動する。
これを見たヒロがどんな反応を示すのか。
心美はじっと見つめて事の行く末を見守った。
「何、これ?」
「ヒロくんの写った写真ですよー。隣に写ってるのはお父さんとお母さんですか?」
「…………お、とう……さん? おか……あ、さん?」
「ヒロくん? どうしたんですか?」
見るからに様子が豹変し、たどたどしい言葉でアオバの声をなぞる。
ポロポロと溢れ出した涙。
その途端、心にも変化が訪れ、心美は咄嗟に目を凝らした。
「お父さん、お母さん……」
「ココミ、ヒロくんの様子がおかしいです! ボク、まずいもの見せちゃったかな!?」
「いえ、これでいいんです。これでやっと……黒く塗りつぶされて見れなかった記憶が晴れました。心の奥底に押し込まれていた彼が忘れたかった思い出……それをようやく閲覧できます」
アオバは不安そうに心美を見て、ヒロの変調を叫ぶ。
そのきっかけを与えたのはアオバということもあり、目の前で涙を零し続けながらうわ言を繰り返すヒロに酷く戸惑いを見せている。
だが、それは遅かれ早かれ訪れた光景だ。
アオバがやらなければ心美がやった。
ただ少し、タイミングが早まっただけだ。
心美は大きく開いた額の瞳で、ずっと隠されていた記憶をついに覗くことができた。
ようやく辿り着いた景色にしばし放心して、はっと気を取り直すと、その記憶の一端に触れた。
閉じ込められていた記憶。
閉じていた心の一部。
その鍵は開いた。
あとは真相を読み取るだけだ。
「ココミ!? ボクはどうすればいいのかな?」
「そんなに心配なら手でも握ってあげなさい。彼は多分……いえ、確実に辛い記憶を取り戻している最中よ」
「え……うん! 分かったよ!」
「私はこのまま真相を見ます。アオバ……あなたが一番彼に寄り添える……だから頼んだわよ」
「はい!」
アオバはそれ以外にできることがなく、心美のの指示通りヒロの手に自分の手を優しく重ねた。
心を読む瞳は感情も読み取る。
蘇る辛い思い出に、心を痛めるヒロ。
そんな彼から心美は目を離さない。
何一つ見逃さない。
心美は己の役目をまっとうするだけだ。
だが、この中でヒロと一番絆を深めたのはアオバだ。
そんなアオバにだからこそ、彼を任せられる。
アオバは己の心に従って、ヒロを安心させようと寄り添った。
それによってヒロの心が僅かに緩んだことを確認した心美は、アオバの姉のような振る舞いに感心しながら、両目を閉じて心を読むことをすべての神経を注ぐのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます