その瞳に何を映す?⑧欠けたピースの行方①
足りないパズルのピースを探すという名目で、これまで無視してきた部屋への立ち入りも許された心美は千里眼で当たりを付けながら歩く。
とはいえ、ヒロの記憶からこれといった手掛かりを得られていない以上、手当たり次第になってしまうが、心美の瞳はそういった作業には向いている。
しかし、もっと簡単に見つける方法があるのではないか。
心美という人物をこれまで一番長く見てきたユキはそう思い尋ねる。
(ねーねー、そのー、ヒロだっけ? の記憶を見ればどこで失くしたのか分かるんじゃないの?)
紛失物を最後に見た記憶をたどって発見する。
確かにその方が手っ取り早い。
すぐにでも思い浮かぶ方法を実行せずに、わざわざ探している現状を不思議に思ったユキは心美に語りかけた。
「そうね。それができれば一番早い。こうして千里眼を開く必要もないでしょうね。でも……それで本当に見えるのかしら?」
(え? どういうこと?)
「あの子……多分だけど、自分が死んでいることに気付いていないわ……。霊として存在していることがあまりにも自然すぎる。はっきり言って心の在り方が異常なのよ」
彼を見ていた時間はまだ僅か。
それでも分かってしまった異常性。
霊として存在していることにヒロが何も思っていないという事実。
心美が軽く心を侵して分かったのは、ヒロが生前の記憶の一部を失っており、更には死んでいることにすら気付いていないかもしれないという可能性。
それ故に心美は、彼の記憶から欲しい情報を抜き取れるのかどうか疑問に思う。
そして、この問題の解決に彼の記憶を利用しない理由はもう一つある。
「あとは……そうね。彼の姿を捉えるのには霊視の瞳を開かなければいけない。そして声を拾うのには心を読む瞳を開かなければいけない。二つ同時に開いて初めて心に干渉できる」
(それって心を読む瞳だけだと心を読めないってこと?)
「厳密にはちょっと違うけれど平たく言ってしまえばそういう事ね。そして霊視の瞳に関してはまだ検証中で、私もすべてを掴めている訳ではない。そんな状態で心を超えて遠い昔かもしれない記憶に干渉する勇気は……出ないわね」
(それもそっか。単体であんなことになったのに同時使用は厳しいかー)
心美も二重開眼には慣れてきつつある。
だが、それでも、心を読む瞳のさらに先の力、記憶を侵すことにおいてはまだ不安が残る。
記憶の表層だけならばそれほどダメージは受けない。
だが記憶の奥底、より深層の部分を垣間見ようとすればするほど、心美にかかる負担はより大きくなる。
言わば一種の賭けのようなものだ。
読み取りたい記憶が近くにある。確実にどこかには眠っている。
そう確信が持てるならそのギャンブルを仕掛けるのも一つの手なのだろう。
しかし、その記憶がどこにもない可能性。
その可能性がチラつく以上、ここで仕掛けるのには相当な勇気が必要だ。
ただでさえ霊視との二重開眼でないとヒロを捉えられないのに、変にリスクある行動を取って見ることも叶わなくなってしまっては元も子もない。
「そういうことですね。今はまだヒロくんを見失う訳にはいかないので無理は禁物です。見えているからギリギリ我慢できているのに……見えなくなったらもうおしまいです……」
(あ、そっちなんだ。意外だったよね、ココミがお化け苦手って)
「あなたは見えてないからそういう事が言えるんですよ。……まぁ、それは置いておいて……今はとにかく足りないピースを探しましょう」
そう言って心美は歩きながら千里眼を縦横無尽に走らせて、とある部屋へと入っていった。
♡
「奥には調理スペースが見えますし、ここが食堂でしたか」
(えっ、ご飯?)
「ここは廃洋館になって長いようですし、さすがに食べられる物は残っていないと思いますが……探したいならご自由にどうぞ」
(わーい)
心美が入った部屋は食堂。
ユキは『食』というワードに反応して、何か食べられるものがあるのではないかと目を輝かせる。
心美は呆れながら自由行動を許可すると、ユキは嬉しそうに心美のフードから飛び出して行った。
心美はゆっくりと見回り、何か気になる事がないか探っていく。
予想外の連続だったが、ようやく調査らしくなってきたと本来の目的に近付いたことを嬉しく思いながら、少し口の端を上げる。
「これが外から見た食器ね。ヒロくんが並べたのかしら……?」
外から館内を観測した際に発見した食器。
それらが目の前に並んでいる。
この廃洋館にて使用済み食器が並んでいる光景は違和感があり、心美は眉を顰めている。
しかし、調理スペースに回ってみても食料らしきものはやはり見られない。
食器の汚れなどは何なのか疑問に思いながら捜索を再会しようとすると、ユキが残念そうに戻ってくる。
(ココミの言う通り何にも無かったよー)
「と言いつつしっかりパズルのピースを一つ見つけてきてるじゃない。よくやったわ。それでどこにあったの?」
(あそこ!)
心美はユキが咥えてきたパズルのピースを受け取って彼女を褒める。
どこで見つけたのかを尋ねると、ユキは嬉しそうに見つけた場所を足で示す。
「はあ、どうしてそんな場所で失くしているのかしらね?」
ユキが示したのは、食堂の隅に置かれている観葉植物の鉢だった。
心美はこの食堂にピースがあるとは微塵も考えておらず、探すことを中断していた。
それが意味不明なところから見つかったことに戸惑いながら、一つ目を見つけられてことを喜ぶ。
「もしかしたらとてつもなく面倒なことを申し出てしまったかもしれないわね……」
(やるって言ったのはココミでしょ! 私も手伝うから頑張って!)
「そうね……。あなたばかりに任せていては私の立つ瀬がないわ。少しは役に立たないと……」
自分には瞳しかない。
その自覚があるから心美は、見ることに関して負けるわけにはいかない。
そのため心美は若干げんなりしながら、次のピースを探すために再び瞳を開くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます