閑話 薔薇精霊の独白

 力の供給が薄くなったことに気付いて目を覚ました時には、すでに連れ出されていた。

 ボクは知らないところにいて、ボクがボクでいるための力の源はとても小さなものになっていた。


 ボクを連れ去った女の子の名前はココミ。

 普通の人間とは少し違って、特殊な能力を持った瞳があるみたい。


 そのうちの一つが心を読む瞳。

 彼女はその瞳の力をよく使っていて、ペット達とも仲睦まじくおしゃべりをしている。

 ボクは狐ちゃんや猫ちゃんの言葉も普通に分かるから、最初はその瞳に何の意味があるのか分からなかったよ。


 その瞳でボクのことも気付いてくれないかな、なんて考えたけどやっぱり気付いてもらえない。

 ただでさえ力の供給が弱まり、存在の維持も弱まっているから仕方のないことだろう。


 枝から切り離された薔薇は寿命を迎える。

 でもその薔薇はボクにとっての家だ。

 薔薇の命が尽きれば、ボクも消えてなくなる。

 一蓮托生な存在。


 だからボクは自分を削ってでも、薔薇が枯れないように生命を注ぎ込んだ。

 そうやって細々と、誰にも気づかれずに薔薇の傍で佇み、ココミ達の生活を眺めていた。




 時は過ぎ、ココミが森にできた家で一人暮らしをし始めた。

 森は自然の力であふれているから、多少なりとも消耗は収まった。

 でも、供給は相変わらず。


 ボクのしていることは先延ばし。

 いつかはやってくる運命を必死に押し返していただけ。

 けれどそれも時間の問題。

 近いうちに覚悟を決めなければいけない、そう思っていた。


 そんな時、転機は訪れた。

 ココミがボクに向かって心を読む瞳を開いた。

 見えていない、聞こえていない。

 そのはずなのに、その瞳はボクを射貫いていた。


 だから期待した。

 もしかしたら気付いてもらえるかもしれない。

 そう思ったボクは必死に訴えかけた。


 ここで気付いてもらえなければ、ボクにもう未来はない。

 ココミはそんなボクの思いに新たな瞳を開くことで応えてくれた。



 ココミは見えるようになったボクに驚いてたみたいだけど、慌てることなくボクの正体を追及してきた。

 ちゃんと意思疎通ができる。

 ボクはそれだけで嬉しかった。


 ココミはボクの事情を知って、この状況を作り出したことを申し訳なさそうにしていた。

 すぐにボクをあの薔薇園に返そうとしてくれた。

 でもボクはそれを拒んだ。

 この時……いや、もっと前から決めていたのかもしれない。


 彼女と精霊契約を結ぶことを、ボクは心に決めていた。

 彼女が薔薇を見て、綺麗だと微笑む姿に、惹かれていたのかもしれない。

 そんなの恥ずかしくて言えないからつい誤魔化しちゃったけど、まあいいよね。


 ココミはとても慎重で、いっぱい悩んでいたけど、最終的にはボクを選んでくれた。

 一応これでも人型の精霊だから、そこらの精霊よりは強い。

 契約してもらえなかったらショックだったけど、無事に選んでもらえたようで何より。


 契約は魂の繋がりを作成、その媒体として名前を貰う。

 ココミがボクに付けてくれた名前はアオバ。

 蒼薔薇だからアオバ、なんて安直すぎるけど、これ以上ないくらいしっくりくる名前だ。



 気付いてくれてありがとう。

 見つけてくれてありがとう。

 素敵な名前をありがとう。


 これからよろしく、ココミマイマスター

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