NO採取YES奪取

 黒猫改めスカーが心美の影へと戻り、彼女を含めた戦利品の整理が終わった。

 ポルテモ草の他にもいくつか見知らぬものが紛れ込んでいたが、本命のものがしっかり獲得できていたので問題はない。


 心美はこれらを持ってルミナスの元へと向かった。

 心美が材料を集め始めてからルミナスも本業の方で忙しくなり、日々薬の調合に勤しんでいる。


 そんな彼女の元へ新たな材料を運ぶ。

 短期間で次々に運び込むことで彼女の仕事をどんどん増やしていく心美は少し申し訳ないと苦笑いを浮かべながら、彼女の部屋の扉を叩く。


「はーい、どちら様……ってココミさんじゃないですか。もうお帰りになっていたんですね。やっぱりなさそうでしたか?」


「つい先程帰りました。ふふ、ちゃんと成果もありますよ」


「本当ですか!? あ、よかったら入ってください」


 顔を出したルミナスはノックの主が心美であると気付くと、少し早めの戻りに成果は乏しかったのではないかと推測した。

 しかし、今の心美は千里眼とテレポートを合わせた応用技で移動にかかる時間も短くなっている。

 諦めて早めに切り上げてきたのではなく、きちんと成果を持って戻ってきたのだと笑って告げるとルミナスもつられて笑い、部屋の入り口で立ち話をするのも何なので心美を部屋に招き入れた。


「すみません、散らかってて……あ、お茶しかないですがどうぞ」


「おかまいなく……ってこれは……。中々ユニークなお茶の出し方ですね。これではまるで薬ではないですか」


「あはは……意外と優れものなんですよ?」


 ルミナスは椅子を用意し、その後お茶を入れて心美に出した。

 そのお茶は理科室で見るような薬品を注ぐビーカーのようなものに入れられており、それを自然と差し出してくるルミナスに心美は困惑の表情を見せたが、彼女曰く便利で重宝しているらしい。


 まるで薬を飲んでいるかのような気分になりながらもその液体をすするが、中身はいたって普通の冷えたお茶だ。

 たかが注がれた容器が珍しいというだけだが、やはりお茶を注ぐのには適していないと内心でぼやくが口には出さない。

 ルミナスも同じようにお茶をすすって一息ついたところで本題に移る。


「これが今回の成果です。受け取ってください」


「わあ、ありがとうございます……え、こんなに? まだあるんですか?」


 心美が鞄から引っ張り出すポルテモ草をルミナスは受け取っていくのだが、差し出した両手から溢れそうになる。

 これほど多くの採取に成功していると想定していないルミナスはまだまだ出てきそうな雰囲気に驚愕している。


「ポルテモ草は近くに複数生えないはず……こんなに採取してくださるなんて相当力を使ったのではないですか?」


「確かに瞳の力は使いましたがそれほど大変ではなかったですよ? それに採取というよりはダッシュでしょうか?」


「ダッシュ? …………奪取!?」


 ガタリと音を立てて立ち上がるルミナス。

 心美がこれまで築き上げてきたイメージ像からは想像もつかないようなワードの登場に目を丸くしている。


「どこから? 誰から盗ってきたんですか? ココミさん! 答えてください」


「そんな焦らなくてもちゃんと説明します。いったん落ち着いてください」


 心美も元より説明するつもりできている。

 鼻息を荒くして迫るルミナスを落ち着かせて心美が知り得た情報を話し始めた。


 ♡


「なるほど……そんなことがあったんですね。てっきりお店から盗んできたのかと……」


「心外です。確かにお金は持ってませんでしたが、さすがの私もそこまで良心を失っているつもりはありませんよ」


「面目ありません……」


 奪取といわれ早とちりしたルミナスは心美が店で売っている商品などをかっぱらってきたのだと勘違いしたがそんな事実はない。

 ただ、誰から奪ってきたかが違うだけであるが、その違いがかなり重要であるため、ルミナスは心美の話を聞いて思考を巡らせた。


「闇ルートに売りさばかれているのは問題なので御当主様への報告が必要として……これだけのポルテモ草が正確に集められていたことも気になりますね」


「やはり異常なことなのでしょうか?」


「はっきり言って。複数人のグループで探したとしてもこれだけの数は集まらないでしょう。しかし、実際にはこれだけの数がある。ということは何らかの形でポルテモ草を見分ける、または探知する手段があったのだと考えられます」


「そうですか。私が読んだのはあくまでも思考の表層部分だったのであまり詳しいことは分かりませんでしたが……そういうことならもう少し深く読んでみればよかったかもしれませんね」


 心美は男達の心を読んで強奪を決意したが、それは邪な考えがその時点で表に出ており、そのポルテモ草が悪事に利用されると分かったからだ。

 そうと決めて即座に行動に移したが、冷静に対処すれば更なる情報を引き出せたかもしれないと思うと今更ながら悔やまれる。


「そう落ち込まないでください。手段はよくなかったかもしれませんがポルテモ草が手に入った事実は変わりません。本当にありがとうございます」


「……そうですね。今は材料集めが進捗していることを素直に喜びましょう。そして次も私に任せて下さい」


「はい、頼りにしていますね」


 情報を整理したことで省みることも明らかになり、素直に喜べない心美だったが、ポルテモ草が手に入った事への感謝を本心から送ってくれるルミナスの励ましに救われた。

 材料もまだすべて集まったわけではない。

 この件はいったん頭の片隅に置いておいて、最後の項目へと気持ちを切り替える心美だった。

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