元野生動物に聞き込み調査

 心美はキリエから新たに受け取った本をめくる。

 メモに書かれていた薬の材料となるものが記された本。

 今となっては文字も読めるようになっているため、その項目を素早く探し当て、調べていく。


「一つ目、見つけました。ポルテモ草、自然治癒力を高める薬草の一種。ギザギザとした葉が特徴的。苦みが強く食用には向かない……ですか。一見ただの雑草にも思えますが、まだ入手出来てないということはやはり珍しいのでしょうか?」


(あ、見てみて! 十分な水分と高い養分を持つ大地でしか育たないって書いてあるよ)


「互いに養分を奪い合う環境では発芽すらしないということであればもちろん群生もしない。自然で見つけるのは困難ということですか」


 ルミナスに教わっていた文字の読み書きにちょこちょこついて来ていたユキ。

 書くという行為を必要としない動物でも、文字を読めるとアドバンテージになる。

 心美の肩から本を覗き込む彼女も、文字をある程度は読めるようになっていて、見つけた一文を嬉しそうに伝える。


「ちなみにですがユキはこれを見たことがありますか?」


(ないよ。こんなおいしそうじゃない草、興味ないもんね)


「それもそうですか。市場にどれくらい出回っているのかをあとで調べてみましょう。これは一旦置いておいて他のも見てみましょう」


 心美はポルテモ草のページに目印となる紙を挟み本を閉じた。

 薬の材料として必要なものはまだある。

 一つの物だけに集中しすぎてはいけない。


「次は……ムラトングトカゲのしっぽですか。トカゲ、ということはこれですね」


(どう? 見つけた?)


「待ってください……ありました。ムラトングトカゲ、隠密行動と再生能力に優れたトカゲですか。発見が困難なうえ、逃げ足も速い。皮膚の色を変化させて環境に溶け込む。保護色……厄介ね」


(保護色?)


「外敵から身を守るために体色を変える事ね。緑の多いところでは緑に、暗いところでは目立たない地味な色に、そうやって周囲に身体の色を似せてうまく隠れる事よ」


(へー)


 保護色に興味を示したユキに心美は簡単に説明する。

 自然界の脅威から身を守るための特性。

 ポルテモ草の入手困難とはまた訳の違う難しさに心美も難色を示した。


「自然に見つけるのは苦労しそうね。でも尻尾を手に入れるだけならそれほど難しくないようにも思えるけれど……」


(どうして?)


「特筆すべきは再生能力。誰かが一匹でも持っていたら無限……とはいかなくてもそれなりの数尻尾を量産できてもおかしくはない」


 発想としては牛や鶏に近い。

 牛が一頭いれば、牛の乳が。

 鶏が一羽いれば、卵が。


 それと同じように、ムラトングトカゲが一匹いれば、その一匹から尻尾くらい何度でも入手ができるのではないか。

 心美はそう考えた。


 しかし、そんなうまい話があるわけもなく、それが不可能な理由がきちんと記されていた。


「あ……そういうこと。中々気難しい生き物なのね」


(えっと……切り離した肉体はものの数秒で消滅。飼い殺しにしようとしてもストレスですぐ死ぬ。ええー?)


 心美は納得し、ユキはげんなりとした心の声を上げる。

 ルミナスが収集に苦戦している以上そう簡単にいかないことは分かっていたが、どれも一筋縄ではいかないことに気が遠くなる。


「トカゲが切り離した部位は瞬時に保存。肝心な保存方法は……いったいこれはどういうことなのでしょうね?」


(あっ! 私聞いたことがあるよ。入れた物の時間の流れを緩めたり、止めたりできる鞄の話!)


「なるほど……ここはそんなものもあるのね」


 まるでゲームの中の話みたい。

 そう感じてしまうのにも慣れていかないといけないと思いつつも、今までは架空の存在だったものが実際にあると聞かされるとつい反応してしまう。


 心美はユキの話に耳を傾けながら、頭の中で詳細をまとめる。

 見つけるのが困難なだけのポルテモ草とは違い、こちらは見つけるのも困難、見つけた後も困難ときた。

 行き当たりばったりで行動しても、どうにもならないだろう。


「保存方法の件は大体分かったわ。あとでルミナスさんやニアさんにでも聞いてみましょう。あなたが通りすがりの人の話を覚えてくれていて助かったわ。ありがとう、ユキ」


(えへへー、どういたしましてー)


 何気ない独り言や、当たり障りのない会話。

 そういったものを拾ってきて、心美に届けてくれる。


 それに助けられるのはこれが初めてではない。

 そして、これからもまた助けられるだろう。


 そんな白く、小さな相棒とも呼べる存在に感謝の言葉を贈る。

 言葉が無くても、心は伝わる。

 褒められたことを嬉しく思い、弾むような心の声を上げるユキを、心美は三つの瞳で微笑ましく眺めていた。

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