偉い人の前は緊張してしまいます

 無言になったニアに案内されたどり着いた場所には、ルチカとルミナス、それにもう一人の男性がいた。

 その男性はニアに御苦労といたわりの言葉をかける。ニアはそのままお辞儀をして下がる。

 そんなやり取りを見て心美は察した。


(この人が……)


 まだ推測の域にすぎない。それでも様々な要因からの予測は恐らく合っていると直感が告げ、心美は身構える。

 そんな緊張が伝わったのか男性は、わざとらしく笑うと心美に話しかけた。


「そんなに緊張しなくてもいいよ。呼んだのはお礼を言うためさ」

(そう言われましても……)


 優しく声をかけてもらっても、状況が状況だ。

 偉い人が目の前にいる状況で肩の力を抜けと言われても困ってしまう心美は内心で泣き言を言う。


「その前に自己紹介をしておこうか。僕はオリバー・レヴィン。このレヴィン家の当主をさせてもらってるよ。とはいえ偉そうにするつもりもないし、堅苦しいのも好きじゃないから楽に話してしてくれて構わない」


「…………そうですか。それならありがたいです。申し遅れましたが私は心美、こちらはユキです。よろしくお願いします」

 その言葉の真意を測りかねた心美は、耐えきれず瞳をうっすらと開いた。

 瞳を開いている時に限り本心が分かる。


 オリバーが本当に堅苦しいのを好まないと心の表層で思っていることを把握した心美は、友人に話しかけるように、飾らずに自然体の状態で自己紹介を返した。

 その話し方が貴族を目の前にかしこまる様にわざとらしい口調ではないと分かるとオリバーは嬉しそうに目を細める。


「うん、よろしくね。そしてありがとう。私の娘がお世話になったね」


「いえ、偶然見つけただけですのでお礼を言われるほどの事ではありません」


「はは、謙遜しなくてもいいよ。ルミナスから事情は聞いているんだ。君が自分の事で精一杯な状況で、心にも余裕がなかったろうに、困っている娘を見捨てずに手を差し伸べてくれた」


 確かに心美は自分の今後がどうなるか分からない状況だった。

 千里眼の力を駆使して森を脱したものの、その後の保証は何もない。


 何もかもが手探りである状況にて発見した子供をキャパオーバーとして見なかったことにするという選択もできたわけだ。

 そんな中心美は泣いているルチカに優しく話しかけ、安心させてルミナスの元へと送り届けた。


「ありがとう!」


「私からも、ありがとうございました」


 ルチカ、ルミナスも続けてお礼を言った。

 心を詠む瞳を開いている心美には感謝の言葉だけではなく、感謝の心の声までダイレクトで届く。

 多くの感謝を寄せられた心美は照れくさそうに感謝を受け取った。


「さて、二人から頼まれたからというわけではないが、僕は君をレヴィン家の客として迎え入れたいと思っている。君さえ良ければになるが……」


「どうしてそこまでしていただけるのでしょうか?」


「さっきも言ったが話を聞くに君は難儀な状況らしいじゃないか。そんな君を放っておくわけにはいかない」


 転生した心美は他人からみれば記憶喪失の少女だ。

 気付いたら森に居てそれ以前の事は分からない。地名などの常識も何も知らない。

 オリバーの言う通り、難儀と言う他ない。


「それに、意地悪でいうわけではないが何か当てはあるのかい?」


「うっ……」


 言葉を詰まらせた心美。

 ここで初めて出会ったのがルチカとルミナス。


 その他に知り合いはいないし、当然当てもない。

 だからこそオリバー提案は魅力的で、言うことも尤もだった。


「すみません。しばらくの間お世話になります」


「はは、しばらくと言わず好きなだけいてくれて構わないよ。何か困った事があったら最大限の便宜を図ることを約束しよう」


 行く当てのない心美にとってこの申し出は千載一遇のチャンス。

 ありがたく申し出を受けて、レヴィン家にお世話になることを決めた心美。

 こうして転生サバイバル少女は、住む場所を得るのだった。

 

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