自由の国の日常は

幽宮影人

序章 

王さまと赤いかげ

 昔々、とはいってもそれほど時を遡らない昔のこと。

 あるところに豪遊の限りを尽くし、高価な装飾品と華麗な女性に囲まれた王様と、そんな王様を止めるでもなく、国民に多額の税を課し、取り立てるお役人や貴族たちがいました。

 街で暮らす人々はいつも飢えに苛まれ、何人もの子供や老人が餓え死にしていきました。

 それを見て大人たちは何とかしようと王宮に乗り込みましたが、五体満足で帰還したものはごく僅かでした。

 もっと言うと、帰ってこなかった者さえいたのです。

 帰還した者の話によると、王様に「このままではさらにたくさんの人が亡くなってしまう。税を下げて欲しい」と訴えてみたのですが、それを聞いた王様はこう返したそうです。

 「私の知ったことではない。どこにでも転がっている道草を気に掛ける王がどこにいるというのだ」と。

 あまりの言葉に逆上した大人たちはもしものためにと隠し持っていた武器で攻撃したのですが、国王の近衛兵たちの反撃に遭い、結果的に出立時の半分の人数しか帰って来ませんでした。

 それからというもの、飢えに苦しみながらも月日をしのぐ暮らしに国民はひたすら耐え、「もう1度王の元へ直談判しに行こう」という声があがることはありませんでした。



 1度目の王座訪問から1年と半年経ったある日。

  夜も更け神々しい光を放つお月様と清らかな星々の照る空に、不穏な赤い影が覆いかぶさりました。

 夜遅くまで仕事をしていたある国民は近隣の男衆を起こしてまわり、赤い影の正体を確かめるべく影へと近づいていきました。

 歩きながら彼らはふと疑問に思います。

 「こっちの方角にあるものと言ったら王城ではないか?」と。

 

 しばらくして影へたどり着いた男たちは目の前に広がっている光景に絶句しました。

 無理もありません。

 なんと赤い影の根元では、あの王様の住処である王城が火に包まれていたのですから。

 そして王城の門前には、縄で縛られ身動きの取れないようにされた王様とお役人、貴族たちと、5つの人影が立ち並んでいました。

 そして5つの人影のうち中央に立っていた青年が、駆け付けた男たちを見てこう言ったそうです。

 「今ここに、エーレヴァルト国ハインヴェルグ王権の瓦解を宣言する」



 翌日、王様と貴族は国民によって裁かれ、お役人の大半は国外追放となり、そうしてこの国は生まれ変わりました。

  次の統治者は『王』とは名乗らず自らを『総統』と称し、4人の幹部と共に国を建て直していきました。

 貧しくいつ死ぬかもわからない地獄のような暮らしから、いつのまにか回復していたこの国は、先王ハインヴェルグの時の国名からこう名称を変えました。


『ラインハルト』


 自由を意味するこの国では、その名の通り自由とちょっとした規律の下、国民は豊かで穏やかな暮らしを営んでいます。

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