第6話

プロレスが好きでよく観に行っていたのだが、なかなか話が合う人がいないので少し寂しい。


小学校の時、ゴールデンタイムにプロレスがTV放送されていた。長州が白いブーツにロングヘア。ストロングスタイルの藤波とやり合っていた時代だ。佐山聡のタイガーマスクが出てきた時は技がキレッキレで何やってるか理解が追いつかず、興奮して叫んでいたものだ。今だにマスクマンとジュニアヘビー級を応援しているのはあの時に見たタイガーマスクのおかげなのかもしれない。


あの頃は『プロレスを見に行く』なんて発想がなかった。チケットの取り方も金額もわからない。そもそも親に『プロレスを見に行きたい!』と言うことさえ思いつかなかった。社会人になり、職場の子が行くならチケット取りますよ?というので『行く!』と即答。あちこち行くようになった。指定席は毎回1番後ろである。リングまでの距離は遠いが1番安い。そこから大声で叫ぶのである。惜しい時は足をドタバタさせてよく前の人からチラチラ見られたものだ。


ある試合の帰り、友人と別れ、別の友人に会いに移動したら、新日本のバスがホテルに止まっているのを見つけた。『ここに泊まってるんや!』興奮して先程わかれた友人に電話をかけ『選手泊まってるホテルがあった〜!』と興奮しながら大きな横断歩道を渡って向かっていた時、前から来る外国人が目の前に迫ってきたのである。外国人が目の前で止まったので見上げると、どこかで見た顔だが誰かわからない。なぜか彼は私の携帯をおもむろに奪い、唖然としている私を横目に友人へ喋りかけたのである。

『!?!?!?』

二言みこと英語で話したかと思ったらスッと携帯を返され、そのまま私とは逆の進行方向へ消えていった。


誰?だれ?ダレ〜!?


誰だかわからない。そしてようやくシナプスが繋がる。

『あっ!スコットノートンや!!!』

ようやく先程の試合で見た顔と同じだと認識。

『今のスコットノートンやん!』

『なに?ホテルから出てきたんや!晩御飯食べに行ったんちゃう?えーーー!マジで?えーーー?』

と、1人興奮するも、電話の向こうの友人は

『今の英語で喋ってた人誰ですか?え?スコットノートン??なんでですか?』

と、あっさりしたもんである。この温度差に興奮も冷めてしまった。


この出来事を誰かに話したいのにプロレスを知らない人に言っても伝わらない。そしてプロレスを知っている兄に話しても軽く笑われたくらいの反応だった。他の人にもこんなことがあったと言っても私ほど盛り上がらず、モヤモヤしてしまうのである。


そんなこんなで、英才教育として子どもにプロレスを見せてみたが、今のところ誰も興味を持ってくれないのである。一度職場の大学生にプロレス好きの子がいて一緒に行く想像をしたが、なんかどんな立ち位置になるのか想像してやめました。


うん…。1人で行こう。

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