第88話 俺自身の
生徒会補佐になった。
ほとんどの生徒から賛成を得ていたから、特に騒ぎが起こることなく……と言いたいところだが、一悶着はあった。
それは反対意見と言えば反対意見なのだけど、俺に能力が足りないとか、そういうことで反対されたのではなかった。
主に訴えていたのは、俺と近しい人達だ。
その中には親衛隊も含まれていて、どうして駄目だと言ったのかというと、生徒会補佐になってしまったら会える時間が減るからというものだった。
慕われているのは嬉しいことだ。
さすがにデモ紛いの行為をしでかそうとした時は、頭を抱えるしかなかったが。
いや、今の世の中でデモって。しかもこんなことで。
俺としてはそういう気持ちだったが、本人達の熱量はだいぶ違っていた。
これは、止めないとどんどんエスカレートしていくだけだ。
その流れが簡単に予想出来て、俺が動くしか無かった。
「俺が望んでなると決めたんだ。反対するなら、俺の考えは間違っていると、そういう意味でとらえていいんだな」
この一言だけでおさまってくれたのだから、案外素直なのかもしれない。
俺が望むなら、ということで諦めてくれた。
でもその代わり、少しでも俺に変な影響を及ぼすようだったら辞めさせる、こんな条件をつけてきたので、たぶんイチが余計な口出しをしたのだろう。
まあそんな騒ぎは起こったけど、最終的には認めてもらえて良かった。
天王寺がデモが起こるという話を聞いた時の表情は、絶対によからぬことを企んでいるようだったから余計にだ。
こんなことで退学者でも出たら、夢に出てきそうである。
そう考えれば、平和的に解決出来た方だと言える。
俺に、生徒会補佐という肩書きが加わった。
天王寺は水を得た魚のように、生徒会長になった途端、精力的に行動を始めた。
それを補佐する俺も大変だけど、それ以上に他の役員が大変だ。
そして生徒会役員について、驚くべき事実がある。
何人か、俺の知っている人がいつの間にか役員になっていたのだ。
生徒会の選挙の時は、生徒会長しかやらなかった。
そして俺が補佐として選ばれて、その後他の役員が決められた。そのメンバーを見て、俺はからかわれているのかと疑った。
庶務に西寺、書記に菖蒲、会計にイチ、そして副会長はまさかの次男だった。
みんなゲームの設定では役員じゃなかった。攻略対象じゃないから誰だか不明だが、別の人だったことは確かである。
俺の親衛隊隊長、副隊長が入っているから、それこそ反対されるかと思ったのに、何故かその意見は出てこなかった。
天王寺の推薦で、学園長が認めたのが主な原因かもしれない。
みんな睨みあってはいるが、なんだかんだいっても仲がいい。俺が置いてけぼりになる時があるから、たまに寂しいと思う。絶対に言わないけど。
そして、他にも変わったことがあった。
山梔子が天王寺の時と同じく、風紀委員長になる時期を早めたのだ。
生徒会役員とは違い、風紀委員長は学園長が直々に指名する。
選ばれる基準は、学園でもっとも正義感が強いこと。そのため家柄や年齢関係なく、誰でもなる機会はある。
生徒会が入れ替わるのに合わせて、風紀委員もメンバーを見直したという話だけど、なんだか意図的なものを感じるのが考えすぎだろうか。
しかも突然山梔子が選ばれたところにも、学園長の作為的なものがありそうだ。油断のならない人である。
気になることはたくさんあるけれど、でも本音を言ってしまうと知っている人の方が安心出来る。
……とは完全に言いきれないのは、生徒会と風紀委員会の顧問があの二人だからだろうか。
予想がついている人もいそうだが、新しく顧問も決められて、そちらも俺がよく知っている人だった。
風紀委員会は、長男。
そして一体誰が決めたのか、生徒会は誰が決めたのか古城が顧問になった。
完全に包囲された気持ちだ。
「よろしくね。相君」
顧問として紹介された時の古城は、なにか思惑がありそうで、たぶん俺の顔は引きつっていたはずだ。
その後ろで風紀委員会の顧問として紹介された長男は、凄く悔しそうな顔をしていたから、二人の間で争いがあったのかもしれない。
生徒会役員になったことだけでも事件だったのに、ここまで変わってしまうなんて。
ゲームから、どんどん違う方向へと進んでいる。
月ヶ瀬が入学する前に、色々なことが変わった。
これがいい変化を産むのか、それとも悪い方向へと進んでいくのか、誰にも分からない。
もしかしたら原作の補正力というものが働いて、入学式の時に元に戻る可能性だってゼロとは言いきれなかった。
それでも俺は諦めずに、生き残るために抗うつもりだ。
月ヶ瀬にも幸せになってもらいたいけど、自分のことも大事なのだ。
いつの間にか俺の中に侵食してきたみんなのせいで、孤独に戦うことが出来なくなったから、こうなったら巻き込んでいくつもりである。
月ヶ瀬が入学するまで、あと少し。
無事に卒業出来るのを神様に願おうとしたが、この状況を作ったのが神様なんだと思い直し、最終的に母に向かって祈った。
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