海上列車。『青春』行き。
@ASSARIASAKI
海の見える車内にて
いったいどうしてこんな電車に乗っているのかはとっくに忘れている。
考えれば考えるほど、どうせ夢だろうと考えてしまいどうでもよくなってくる。
これもまた夢だからに違いない。
青春とかいうふざけた駅を目指して走る電車は、海の中に浮かんでいる頼りがいがあるのかないのかわからない線路をゆっくり進んでいる。
これまでの駅を思い返すが、やはりこれも思い出せない。
「忘れてるだけだよ。」
いきなり声をかけられるが、驚きはしない。
いいじゃないか。これは夢なんだ。
「じゃあしゃべっている私は何なんだろうね。」
ああ、それはもちろん。
『次は、終点。『青春』です。ご乗車のお客様は…』
「それはもちろん?」
…なんだっていいじゃないか。
妄想でも本物でも。君は君だ。
「まあ確かに。」
僕は誰と話しているのだろう。
電車の窓から外を眺める相手を見てみる。
真正面だが、気が付かなかった。
いや、最初からいなかったのかもしれない。
横顔を眺めるが、やはり誰だかさっぱりである。
窓の外なんか見ても海しかないだろうに。
「そんなことないよ。ほら鳥がいる…なんだろう。カモメ?うん。カモメかな。」
そんな馬鹿な、と思っているとカモメの鳴き声が聞こえてきた。
後ろから感じていた日光は、途切れては戻ってくるを始める。
鳴き声が数を増やして聞こえてくる。
なるほど。気づかなかっただけで確かにカモメはいるようだ。
「鳥がいるってことは島もあるよね。ほら、あそことか。」
指をさす方向を見ていると、窓の横から小さくなった島らしきものが見えはじめる。
これも気づかなかったのか。
誰しも盲点と言うのがあるものだ。
「言い訳かな。」
見えていなかっただけで、本当のことだ。
「言い訳だね。」
本当に島があったのかもわからないんだ。
いや、島ではなく鳥だったか。
…まあいい、そろそろ着くだろうし。
「うん、そうだね。で、私がだれかわかったかな?」
だからそれは…いや、そうか。夢か。
「そうだね君の夢。私のじゃないよ。」
…鳥は、最初はいなかった。
「…うん。」
島もだ、この電車に乗った頃は海だけだ。
言っていたじゃないか、鳥がいるなら島がある。
窓の外から島と鳥を見たんだ。
普通にな。
「なあんだ。寝ぼけてるのかと思ったら、起きてるんだね。」
寝てたら、わからないことばっかりだからな。
「ふーん。じゃあ聞いとこうかな。私は、誰?」
それは『次は、終点。『青春』。『青春』です。お出口は右側です。』
…じゃあ、行こうか。
「…わかってるじゃん。」
少しにやけている横顔を横目に席を立つ。
寝ていては、会話すらままならない。
寝ながら電車から降りるなんて以ての外だ。
鳥の鳴き声がうるさいが、僕らの会話はまだ続く。
海上列車。『青春』行き。 @ASSARIASAKI
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