蓋を開ければなんのその

「――茶番はそこまでにしておきなさい。緑川さん」


 俺めがけて振り下ろされた緑川の手が、羽崎の一声ひとこえで急停止。


「……へ?」


 寸でのところで止まったその手に得物は握られておらず、俺の口から間抜けな声が漏れてしまった。


「……ぷふッ。ちょ、センパ~イ、なんです? その顔は。もしかして、本気でウチがセンパイに手を下すって思っちゃってました?」


 さっきまでのはすべて演技だったのか、揶揄うように言ってきた緑川の瞳は輝きを取り戻している。


 なにがなんだかわからず、呆然としたまま俺が首を縦に振ると、緑川は口元を手で押さえぷぷぷと笑った。


「さすがにそこまでしませんよ。ちょっと懲らしめてやろう、その程度のつもりでやったんですがね……どうもセンパイは想像力豊かな人のようで。他の二人は演技だって気付いてましたよ? ――ねえ! 気付いてましたよね? 演技だってこと!」


 緑川が顔だけを振り返らせ問いかけると、羽崎は小さく頷いた。


「え、あれ演技だったの? あたしはてっきり本気で……」


 どうやら小鳥遊は騙されていた側だったようだ。仲間だな、俺達。


「小鳥遊センパイはしょうがないとして、まあそういうことなんです。ごめんなさいセンパイ、怖がらせちゃって」


「あ、ああ……気にしなくていいよ、うん」


 緑川は小悪魔チックな笑みを浮かべたまま、あざとい後ろ歩きで羽崎達の元に戻った。


 どこか穏やかな表情をしている羽崎と緑川。一人だけ安堵している様子の小鳥遊。全員、あまり怒っていない風に見える。


「くどいようだけど……ほんとに悪かった」


 だからと言って許されたと結び付けるのは自分勝手。俺は今一度、3人に謝った。


「もう謝らなくていいわ、目黒川君」


 真っ先にそう返してくれたのは意外にも羽崎だった。


 まだ終わりではないらしく、彼女は言葉を続ける。


「あなただけのせいじゃない。私も、無理矢理約束を取り付けてしまったしね。非はこっちにもある」


「ウチも羽崎センパイと似たようなもんですよ。センパイ一人のせいにはできないです……とか言って、さっきは脅すような真似しちゃいましたけど」


「あ、あたしはちゃんと目黒川の了承を得てここに来たけどね」


 羽崎と緑川が自分も悪かったと口にする中、小鳥遊だけが胸を張って誇らしげに言った。


 そんな小鳥遊を羽崎と緑川がしらけた目で見つめる。


「な、なによ……その目は」


「どうせ、目黒川君の迷惑も考えず粘りに粘って取り付けた約束でしょ? それでよく勝ち誇ったように言えたわね。呆れを通り越して尊敬するわ、その神経の太さに」


「ぐッ……」


 結果だけを言った小鳥遊。過程を言い当てた羽崎。


 どちらも正しく、だからこそ小鳥遊はなにも言い返せずにいる。


「……あ、あたしも、その、悪かった」


 少しして白旗を振った小鳥遊。その姿を見て満足いったのか、羽崎は俺に視線を戻す。


「目黒川君がどれだけお客を抱えようと、私達サービスを提供される側は文句を言えない。本物の彼女ではないのだから当たり前だけど……ただ、私が言える義理ではないけれど、どう考えても不可能なスケジュールを無理に通そうとしたあなたもあなたよ。前もって事情を話してくれていたなら、こういう事態にはならなかった……と、思う」


 自信なさそうな言葉尻だったものの、羽崎の指摘は間違っていない。影分身なんて非現実的な考えしか浮かんでなかった時点で俺は素直に無理だと伝えるべきだったんだ。


 それができなかった俺も、彼女達に文句は言えない。


「だから……どうかしら? お互い様ということで今回の件、水に流さない?」


「……皆がそれでいいなら」


 俺は羽崎以外の二人に順番に目を向ける。羽崎は「オッケーでーす!」と敬礼ポーズで応え、小鳥遊も渋々といった感じで小さく頷いた。


「決まりね」


「ああ……ありがとな、羽崎」


「礼なんていいわ。それより、一つだけ確認しておきたいことがあるのだけれど」


「なんだ?」


「本物の彼女ができたら代行サービスはやめるのよね?」


「……まあ、そうだな」


 俺はイエスと答えた。営利目的じゃなくネタツイートが発端の代行サービス、やめようと思えばいつでもやめられる……今はやめづらいから続けているけども。


 今後、俺に彼女ができたとしたら問答無用でやめる。恋人代行サービスなんて続けてたら未来の俺の彼女に失礼だから。


「そう……なら良かったわ」


 羽崎は一歩前に出て、今度はこの場にいる全員に提案する。


「せっかくここまで来て、これだけで解散というのも締まらないから――今日の所は皆で仲良く、というのでどうかしら?」


「ですね。今日のところはそれでいいかもです!」


「? ま、まあ別にいいけど……」


 緑川と小鳥遊から異論の声は上がらなかった。

「俺もそれで構わないぞ」


「満場一致ね。じゃあ――皆で楽しみましょうか」


 こうして俺達は代行サービス云々関係なく、知り合い……いや、友人として新年を過ごすことに。




――――――――――――。

どうも、深谷花びら大回転です。


前話は嘘だの二文字を並べまくっただけのふざけ切ったものを投稿してしまい誠に申し訳ありませんでした。もうね、気が気じゃなかったですよ……これ投げたら多分、批判批評の嵐だろうな、フォロー外されまくるだろうなと。

まあそれでもドMのわたくしは投稿しちゃうんですけどもね、つか事後なんですけどもね。

……いやぁ、驚きでした。貶されることはあっても褒められはしないだろうと思ってただけにね。読者の皆様は心が広いんですね。素敵だと思いますし、本当にわたくしは恵まれてるんだなと改めて実感しました。









寛容な心をお持ちの読者の皆様へ――――昨日の夜は大変気持ちよかったです。

童貞野郎どもざまぁw(煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽煽)

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