0――――さようなら、目黒川

「3――2――1――ハッピーニューイヤアアアアーッ!」


 遠くからワイワイガヤガヤと賑やかな音が聞こえてくる。新しい年を迎え、皆一様に笑顔だ。


 賽銭箱へと続く参道、いつの間にやらできていた列に次々と参拝客が加わっていき、姿勢の良い蛇ができあがっていく。何事もなければ今頃、俺達も並んでいただろう。


 明るい。皆、希望に満ち溢れている。比べて俺は……。


 光の届かない、てのは少々大袈裟が過ぎるが、とは言え暗いことには変わらず、辺りに人の姿はない……そんな陰鬱とした場所に俺は連行されていた。


 誰に? それは言うまでもないでしょう。


「……年、明けたみたいですね――――センパイ方、明けましておめでとうございます」


 俺と同じく、盛り上がる人だかりに視線を送っていた緑川が、小鳥遊と羽崎の方に顔を向け、新年ならではの挨拶をした。


 小鳥遊と羽崎もならって同じ言葉を返す。淡々としたやり取り、新年を迎え心機一転! といった感じは微塵もしない。


 誰も俺に明けましておめでとうを言ってこない。なのに、打ち合わせでもしたかのように3人の視線が俺に集まる。


「んで、センパイもなにかウチらに言うことがあるんじゃないですか?」


 代表として口を開いたのは緑川だった。表情豊かがデフォなだけに、真顔の彼女がとてつもなく恐ろしい。『明けましておめでとう! 今年もよろしくな!』なんて言った日にはもう終わり、俺の今年が一日も経たずに終わってしまう。


 求められているのは謝罪と説明、それだけだ。


「……もう察しがついてると思うんですが、実はお三方全員がその、代行サービスの利用者と言いますか……それで、なんの因果かたまたまお三方の要望が一致してしまいまして……ほぼ不可能に近いと理解してたんですが、『まあどうにかなるっしょ!』と楽観的に捉えたまま当日を迎えてですね……んで、結果がこの有り様で……ほんと――申し訳ありませんでしたッ!」


 俺は頭を深々と下げた。


「……とんだ恥さらしですよ。ウチら全員、彼氏がいる前提の振る舞いしちゃってましたし」


「……すいません」


 緑川の呆れた声が頭上から降り注がれ、俺は地を見つめたまま再度、謝罪の言葉を口にした。


「なにか、言い残すことあります?」


「――えッ⁉ それ、人殺める時に用いるセリフじゃッ! ……嘘、本気?」


 驚き顔を上げた俺の目に、瞳の輝きを失くした緑川が映る。


 漫画とかでよくあるようなあの瞳……あれ、なんて言うんだっけ? パイプ目じゃなくて…………。


「――あッ! 思い出したレ〇プ目だそれ!」


「わかりました。それが最後の言葉ですね」


「違う違う違うッ! 今のはそういうんじゃなくて――」


「なら早くしてください。3、2――」


「ちょ、やめて! 焦るからそれやめて!」


「1」


「あ――明けましておめでとう! 今年もよろしくお願いします!」


「はい。それでは良い来世を」


 俺が言うや否や、緑川は問答無用といった足取りで向かって来る。凶器を手にしているわけじゃない。かと言って隠し持っている可能性を否定できる材料はなにもない。むしろ、彼女の様子からして確実に俺を殺す手段を有していると見ていいだろう。


 要約すると――俺はここで死ぬ。


 キキキキキキキキキッキッキ…………。


 幻聴か、ひぐらしの鳴き声が聴こえた気がした。


 冬なのに……ああ、そうか……じゃあこれは幻聴だ。


 眼前まで迫って来た緑川が勢いよく手を振り上げる。なにを持っているか、なんてのは愚問だ。見ずともわかる、きっとなただ。


「――さよなら、センパイ」


 ああ、そうか……これがかの有名なオ〇シロ様の祟りってやつか。





――――――――――――。

どうも、生まれ変わった深谷花びら大回転です。煩悩を捨てたわたくしは、下品とは無縁の存在となりました。

これまでわたくしの品性下劣さに嫌悪感を抱いていた方には朗報ですね。同時に、楽しみにしてくださっていた方には悲報でもあります。申し訳ありません。


ふふふ、今日は空が澄んでいて目が癒されましたわ。日頃の疲れがどこかへ飛んでいきました。わたくし、冬の空が好きなんですよね。青く澄んでいて……なぜか、幼かった頃を思い出すんです。お父様に抱きかかえられながら見上げていたあの空、どうやったら雲が掴めるんだろうか?と真剣に悩み手を伸ばしていたあの頃を……思い出すんです。


ふふ、懐かしいです。


くだらない話に付き合わせてしまって申し訳ありませんでした。次回もお楽しみに。








――――嘘だッ! そんなの大回転先生じゃないッ! その気色悪い仮面の下にある本音を晒しやがれッ!



「あああああああああムラムラするよおおおおおおおおおおおおおおッ! へッ、へッ―――んんんんんああああああああ――ムラムラするよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ! 澄んだ空というキャンパスにビンビンに伸びたナニの先を向けて白く汚してやりたいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」





……そう。人はそう簡単に変われない。変われないのだ。

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