『本日限定!彼氏役を承ります!』とネタツイートした結果、3人の女子が食いついてきました。しかも限定のはずなのに計画的にご利用する気満々なのですが。

深谷花びら大回転

『限定! 彼氏がいないクリぼっちの女子必見! 時給980円であなたの彼氏役を承ります!』

『限定! 彼氏がいないクリぼっちの女子必見! 時給980円であなたの彼氏役を承ります!』


 クリスマスイブ前日の夜、俺――目黒川めぐろがわ奏多かなたはあるツイートを全国に発信した。


 内容はクリぼっち女子を煽るようなもの。まあいわゆるネタツイート的なやつで、バズったりしないかな? と淡い期待を抱いて発信した。


 もちろん、プライベートのアカウントではなく趣味垢から。


「いいね、リツイート、共にボチボチって感じだなぁ」


 何件かリプもきている。『是非、お願いしたいです。男ですけど、大丈夫ですよね?』とか『おっさんと……ホワイトクリスマスを楽しもうよ……ホワイト……ふふ』みたいな。気持ち悪いけど笑ってしまう。


 ネタと理解してる証拠でもあるな。というか、こんな馬鹿げたツイートに引っかかる女子なんているわけ…………あ?


 突如送られてきた3件のDM。しかも立て続けに……怪しさしかない。


 恐らく業者だろうが、念のため確認しておこう。


 俺は手紙マークをタップし、送り主のアイコンをそれぞれチェック、それから冒頭の文を読んだ。


 ……これ、さっきのネタに真剣に食いついてきた女子じゃね?


 公公こうこう然ならぬ業者然としていない、至って普通のアカウントのように見える。それに、全員が全員、さっき俺がツイートした内容に触れている。


 まさか引っかかる女子が本当に出てくるとは予想もしてなかったな。やっぱクリスマスイブに彼氏いないのは女子にとって大問題なのかな? それとも手の込んだネタか?


 ――どちらにしても面白そうだし、とりあえず返信してみよう!


 俺は仰向けの姿勢から一回転してうつ伏せになり、一番上の『★みどみの★』さんのメッセージを開く。


『ツイートを見てメッセージを送らせていただきました! 明日、彼氏役を頼みたいんですけど、いけます?』


『ええ、構いませんよ』


 さてさて、どうくるかな? ニヤニヤしながら待っているとすぐに反応が。


『ほんとですかッ⁉ あの、お住まいはどちらで?』


『先に教えてもらっても?』


『あ、失礼しました。埼玉県○○市なんですけど、わかります?』


 警戒心なさすぎじゃね? ていうか……え、やだ、俺が今いるとこじゃない。


『奇遇ですね。自分も同じです』


『え、なんて偶然ッ⁉ じゃあ○○駅わかります? わかりますよね? そこで10:00に待ち合わせで! 時間は14:00までお願いします! ちゃんとお金は払いますので! ちゃんと来てくださいね? 待ってますから!』


 ……なんか、一方的に予定組まれちゃったんだけど。


 それから何度呼び掛けても★みどみの★さんは応じてくれなかった。


 まあいいや、次いきましょ次! えっとなになに……〝玉じゃなくってお菓子な人生〟さん? なんだこの名前、意味わからん。


 長いから玉さんでいいや。どれどれ……。


『彼氏役になってくださるという旨のツイートを拝見し、連絡した次第でございます。つきましては明日、16::00~19:00の間、貴方様に彼氏役をお願いしたく存じます。場所は埼玉県○○市、○○駅で』


 初っ端から住んでるとこ教えてきたよこの人。しかも、え? またしても俺の地元ッ⁉


 偶然は重なるなんて言うが、にしてもだろ、これは。


『あの、まだやるとは決まってないので』


『いいえ、決まってます。貴方様がどこに居ようが来ていただきます。交通費を心配されているのならご無用とだけ。全額負担します。時給を倍――いや5倍にしても結構ですので、必ず来てください。待ってます』


 時給を5倍ッ⁉ ちょ、切羽詰まってんの? たかがクリぼっち程度でそこまでするか普通。


 わからない……男子の俺には到底。そりゃ確かにクリぼっちは辛いけれども、ここまで行動的にはなれない。


 以降は★みどみの★さんの時と同様だった。


 残すは最後の一人……〝羽崎はねざき美羽みう〟さん。


 俺と同じ学校、同じクラスに同姓同名の女子がいる……が、さすがに別人だろう。いくらとんでもない偶然が続いてるからって、それは。


『ツイートを見て連絡。彼氏役を頼みたい。明日、夜の9:00、○○駅で…………お願いね? 〝目黒川〟君』


 ――思いっきり身バレしてるううううううううううううッ!


 しかもこの愛想の欠片もない淡白な文――間違いない、俺の知ってる羽崎美羽だ!


 どうして趣味垢から俺だと特定できたんだ? あれか? 知らぬ間にスマホを覗き見されてたとか……いや、あの女が他人に興味を持つとは考えられない。


 なんだなんだ――なんなんだよこのあり得ない偶然の連続はッ! 俺は知らんッ、知らんからなッ!


 俺は部屋の明かりを消し、現実から目を背けるように布団にくるまった。


 ちょっと盛り上がれば良いな……そんな気持ちでしたツイートがキッカケで、人生が大きく変わることを――この時の俺はまだ知らない。




――――――――――――

まいねーむいず〝ダイカイテン・フカヤハナビ~ラ〟……ハロゥ?


オゥ……シンサクゥ? デエス!


イエスイエス――イエエエエエエエエエエエエエスッ!


…………ア~ハ~ン?


ふぉいふぉいふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおいい!!!



シーユー!

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