きのこの幼女達

「どどど、どういうことじゃ?? こ奴らは一体……?」


「私の複製体を作ってみたのですぅ。まだ未熟で育ちきっていない幼体ですしぃ、記憶の同時共有までできておりませんがぁ、ある程度私の経験や知識を持ってますぅ。まぁ、要は分身というわけですがぁ、ある程度独立した個体でもありますぅ」


 リフィが分身を作ってみたと、それなりに大きな胸を張ってドヤ顔を見せる。お子さ魔王は驚く余り気付いていなかったが、良く良く見てみれば、その幼女達の見た目は紛れもなく小さなリフィ達であることが分かる。落ち着きを取り戻したお子さ魔王はそこに気付くと、素直にリフィの能力に感心するのだった!


「ほぉほぉ! なぁるほどのぉ。ではこ奴らは儂のことも分かっておるわけじゃな?」


「そうなりますぅ」


「そうかそうか。……っと、ちょっとまて、であるとするなら二人程反応がおかしくなかったかの?」


「それは〜……独立しているがゆえにぃ、それぞれに個別の人格がありますからぁ、興味のないことに積極的でない子やぁ、食べることにしか興味ない子もいたりしますぅ」


「……つまり儂の事を判別できないあの子は、儂の事が眼中にないのね。……って、待てい! その理屈じゃと、あ奴は儂の事見て飯と言うたわけか!? てことはあ奴、儂の事を餌だとか思っとりゃせんか!?」


「え〜っとぉ、それはぁ、……大丈夫だと思いますぅ。……多分」


 自分が狙われてるかも知れないと感じたお子さ魔王、思わず安全確認を取る。そこへリフィが大丈夫と言いつつ、自信無さげに多分と付け足すもんだから、お子さ魔王がめっちゃ不安になるのであった!


「お前の分身なのにすっごい悩んで答えたね!? 多分じゃ駄目なんじゃよ!? 安心安全が第一なんじゃからね!? ……っちゅーか、何で食べることに意識が行っとるんじゃ。そもそもお主ら、栄養を経口摂取したりせんじゃろ? まぁ、できぬというわけでもなかろうが……」


「できるできないで言えばー、可能ではありますねぇ。わざわざ胃を模して作った袋の中に収めるてぇ、その後で分解しますのでぇ、まぁ不要な行為ですねぇ。ただー、あの昼食会の時ぃ、魔王様が余りにも美味しそうにお召し上がりになられてたのでぇ、食事というものに興味が湧いたと言うかぁ。多分その時の記憶がより濃く反映されて生まれた子だと思うのですぅ。ですからぁ、魔王様がいるということをぉ、美味しい食べ物が食べれるかも? とすり替えてるかも知れませんねぇ。だから危険は全くないのですよぉ」


「まさかの原因は儂の食欲のせいじゃった!? ……ま、まぁ危険さえなければええんじゃ。っちゅーかお主、そこまで分かっとったんなら、早う誤解を解いてくれればええものを。……もしや儂のことをからかっとったんか?」


「さぁどうでしょう〜?」


「こ、こ奴……」


 今度は安全の根拠付きで説明されてホッとするお子さ魔王。しかしそんな根拠があるなら安全を言い切らなかったのはからかいではなかったか? と気付いた魔王はからかわれていることに気づき、リフィはわざとらしく躱してみせるのであった。


「うふふ〜。で、ですねぇ、これからここの菌床育成のお世話等はぁ、この子達がやってくれるのですぅ」


「うぬぅ……なるほどのぉ」


 からかわれたことに少し納得のいかないお子さ魔王は唸るものの、何故リフィが分身を作ったかの理由については理解した。できるなら自分も分身が欲しい、とお子さ魔王は思うのであった。しかし仕事というか研究の分担を決める時に、やりたいことでもめる未来しかないことに気づき、すぐにその考えを放棄した。


「そして私はぁ、これからは魔王様のお世話をさせて頂きますぅ」


「む? 儂のか? ……何でまた?」


「大恩ある魔王様のお世話をするのは当然のことなのですぅ。それに日々の糧の仕入れだとかぁ、人を介する雑務というのはぁ、それなりにあるですよねぇ? もし私が身の回りのお世話をすればぁ、雑事に費やされるはずの時間を研究に回せますよぉ?」


「なんと!? そうじゃ、そうじゃな! 言われてみればそうじゃわい!」


 普段の仕入れに関しては、時折近くの町や村に多少金額に色付けをして大量発注し、小山の麓まで運んで置いておくように指示していた。中には受取人が姿を見せないからと、不埒なことを考える輩もいなくはない。しかし多少の料金の上乗せ――倍くらいまで――ならばともかく、余りに欲をかいた連中とは二度と取引をしていない。結果として残った正直者達が、この美味しい取引を独占できているのである。それはお子さ魔王が人と会う必要がないように構築されたシステムと言えた。しかしそれゆえ、決まった注文は継続可能としても、細かい注文がしにくいことも確かであった。


「それとこれが最も重要な点でしてぇ、ごく稀に訪れる煩わしい人間の相手もぉ、私が一手に引き受けちゃいますよぉ?」


「にょっほー!? それはすっごい有り難い! 是非に頼む!」


「はぁい、任されましたぁ」


 こうしてお子さ魔王は居候改め、メイドを手に入れることとなった。最初はリフィの境遇というか行く末を不憫に思って、連れ帰っただけの関係であった。しかしいざ連れ帰ってみれば、何故か自分以上の引きこもりを発揮された挙げ句に半年も音信不通ときた。しかもお子さ魔王は、その長期放置を経たがためにその存在を忘れかけていたくらいだ。そしてついに現れたと思ったら、万能っぽいメイドを雇い入れられた事になったお子さ魔王、歓喜の瞬間であった。情けは人の為ならず、巡り巡って己が為を地で行く出来事である。


「では儂は早速先程の実験の続きを行うとするわい!」


「では私はその間、お昼ご飯の用意などしておきますねぇ」


「うむうむ!」


 前は急げとウキウキしながら実験室に帰るお子さ魔王にリフィが伴い、二人は山小屋へと戻っていった。……が、その後ろ姿をじっと見つめるものがいた。


「……まんま」



 ………

 ……

 …



 その後、リフィの乱入で中断させられた実験の続きに勤しむお子さ魔王。リフィが気を利かせてくれたのか、非常に快適な実験に集中できる至福の時間を過ごせた。その実験も一段落してみると時は昼過ぎ、そろそろ休もうかという所に昼餉の声がかかった。


「魔王様ぁ、お昼ご飯の時間ですよぉー」


「む? 何とも良い頃合いじゃな。丁度一段落ついたところじゃったわ」


「うふふ〜。ちゃんと合わせてるんですよぉ?」


「え? ……どうやってかの?」


「魔王様の実験室に、小きのこを生やしてぇ」


 タイミングの良さには秘密があるのだというリフィに、その理由が気になったお子さ魔王が思わず問うと、リフィの小さな眷属が実験室に生えて・・・いるのだという。それにお子さ魔王は慌てて更に問い質すのだった。


「え、ちょっ、何してくれとるん? そのキノコ、胞子散らせてなかろうな? 中には繊細な素材や実験もあるのよ?」


「そこは大丈夫ですよぉ? 指向性を持たせて育てたのとぉ、胞子を作る能力は無くしてありますのでぇ」


「……そんな事もできるんじゃの」


 お前それ、もうキノコならどんなものでも作れるんじゃないのかと、半ば呆れ気味に納得するお子さ魔王。しかし次の瞬間には美味しそうな香りに釣られて、もうお昼ご飯の方へと意識は移っていた。


「ほぉ、これまた……美味しそうな匂いじゃのぉ! して、何を作ってくれたんじゃな?」


「きのこの旨味たっぷり溶け込んだぁ、クリームパスタですぅ」


「おおぅ! きのこの旨味とな!? 流石はリフィと言った所か! 何とも美味そうな響きじゃのぉ!」


 メニューの内容を聞いたお子さ魔王、ウキウキしながらリビングに向かうのだった。そのリビングのテーブルには、作りたてであろう湯気を立ち上らせたクリームパスタが用意されていた。色艶香り、何をとってもただ美味そうという小並感なコメントしか出てこなさそうな代物であった。


「にゅおっほー! うっまそうじゃー!」


「まんまー!」


「「………………」」


 その美味そうなクリームパスタを前に、期待感で狂喜するお子さ魔王……と、キノコ幼女。思いがけない存在の登場に、魔王とリフィは思わずお互いを見つめるのだった。


「まんまっ! まんまっ!」


「のぉ、リフィや?」


「仰っしゃりたいことは察しておりますぅ。でも何故かはわかりません〜」


「……まんま?」


 早く食わせろと言わんばかりのキノコ幼女を尻目に、何故居るのかという疑問の応酬が行われた。勿論答えはない。キノコ幼女が勝手に上がってきたのだろうとしか言いようがないからだ。そしてキノコ幼女はというと、何故食べないの? とばかりに、つぶらな瞳を二人に向けるのだった。


「……これは、儂の分じゃよな?」


「そうですねぇ〜」


「んまっ!?(ウルウルウル……)」


 食べる気満々のキノコ幼女であったが、用意されてるのはお子さ魔王のご飯だと分かるとショックを受け、食べちゃ駄目なの? と言わんばかりの悲しみに満ちた視線を魔王に向ける。その視線にお子さ魔王は思わずたじろぎ、直ぐにリフィに確認を取った。


「こ奴の分もあるかの?」


「よろしいのですかぁ?」


「構わん構わん。何時も一人で食べてて味気なかったしの。それにお主は仮に一緒に食べたとして、食べたフリじゃろ? じゃがこ奴は……なんか普通に飯を食いそうな気がするでの」


「ではこの子の分も用意させて頂きますねぇ」


 魔王がキノコ幼女の分も用意するようリフィに言ったため、キノコ幼女は自分の分が用意されると分かり、溢れんばかりの笑顔を炸裂させた。


「まんまー! あっ……とぉ!」


「……ありがとう、じゃろうか?」


「だと思いますぅ」


 まだ生育が未熟であるため舌足らずではあったが、ご飯ありがとうという意思は伝わった。そんな幼女の様子を見て、顔をほころばせるお子さ魔王。……お子様が幼女の世話をする図は、ありですね!


「……中々に可愛いではないか。よし、これからも一緒に食事をすることを許そう!」


「!? まんっまー!! だぁっ……きー!」


「……だいすき、じゃろうか?」


「だと思いますよぉ?」


「ふぉっ……可愛いのぉ」


 ちびちびにこにこ。そんな絵も、キノコ幼女の分のクリームパスタがテーブルに並んだことで、食欲の宴へと一瞬で塗り替わる。


「おおっほー! 待っとったぞー!」


「まんまー!」


 なお、新しく持ってこられた熱っつい方は、キノコ幼女の前に置かれた。お子さ魔王は熱いのは駄目だからだ! そしてお子さ魔王とキノコ幼女は一瞬だけ視線を交差させると、眼の前のパスタにがっつくのであった。


「「うんっまー!!」」


「あらあら、うふふぅ」


 もはや語彙を無くしたお子さ魔王と、元々殆ど語彙の無いキノコ幼女は、仲良く絶賛のハーモニーを奏でながらパスタを平らげていくのであった。お子さ魔王は2皿、キノコ幼女は残り全部を平らげたことを記しておく。


「まんまー!」

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